おうちのワンちゃんネコちゃんにがんが見つかった時、ご家族の方はさぞかし驚かれることでしょう。「なぜ、うちの子にがんが?」と悲観的になられる方も多いです。それでも、がんが見つかったワンちゃんネコちゃんを支え、共に闘おうとするご家族のお力になれるような情報を今回はご紹介できたらと思います。
がんが見つかってからのお世話の注意点
動物病院でがんと診断されても、今までのお世話の方法を大きく変更する必要は通常ありません。これまで通りのご飯やトイレ、睡眠、散歩や運動などはできるだけ続けるよう心がけましょう。ワンちゃんネコちゃんがこれからがんと闘っていく上で、栄養の摂取や排泄、筋肉の維持はとても重要です。現時点で適正な体重・体格かどうかを獣医師に確認し、可能な限り近付けるようにご飯の量や運動量を意識するとより良いでしょう。
栄養摂取や筋肉量が低下すると、“悪液質”と呼ばれる病態に陥りやすくなります1)。この悪液質は、がんに限らずさまざまな病気によって栄養不良となり、全身の筋肉量まで低下した末期的な状態であり、一気に弱ってしまう原因となります。
また、他の病気の治療で飲み薬やサプリメントを与えている場合は、その種類を獣医師に正確に伝えて下さい。がんの治療と共に続けられるものであれば、食事同様に継続していくことが推奨されます。
その上で、シチュエーションによって注意すべき点が変わりますので、それぞれ解説したいと思います。
ご飯
獣医師から特別指示がない場合、食事内容やあげ方を変える必要はありません。ただ、以下の点には注意して、変化があった場合には動物病院へ連絡しましょう。
食欲がない、口にしたがらない 選り好みが強くなった 吐き戻しをするようになった、増えた などです。
特に、ご飯と一緒に抗がん剤などの治療薬を与えていて、その後吐いてしまった時には要注意です。吐いたタイミングやお薬の種類によって、追加で新しく与えるべきか変わりますので、必ず獣医師に確認しましょう。また、多頭飼いされている家庭では、嘔吐物を他の子が食べてしまわないように観察する必要もあります。もし、他の子が嘔吐物や抗がん剤を誤って飲み込んでしまった場合、状況によっては動物病院にて吐かせる処置を受けてもらうかもしれません。
トイレ
トイレの場所や数なども大きく変える必要はなく、散歩中に排泄するワンちゃんも原則は今まで通りのタイミングでお外へ連れて行きましょう。ご飯同様に、注意すべき点は次の通りです。
おしっこの回数が変わった おしっこの色や匂いが変わった うんちが軟らかくなった、下痢をするようになった おしっこやうんちに血が混じるようになった などになります。
特に注意すべきは、抗がん剤治療を受けているワンちゃんネコちゃんです。投与後2〜3日間は嘔吐物や排泄物(おしっこやうんち)に抗がん剤の成分が含まれており、ご家族や同居の子へ曝露されてしまう可能性があります。多頭飼いされている場合には、同居の子とトイレを分けた方が良いでしょう。
病院で抗がん剤の注射や点滴を受けた場合は投与後2〜3日間、ご自宅で継続的に抗がん剤を飲ませている場合は持続的に次のような対応が必要となります2)。
排泄物や排泄物が付着したペットシーツ、猫砂などは直接触れず、ゴム手袋などを着用して処理しましょう 二重のビニール袋で密閉して、一般ごみとして廃棄して下さい 処理後は石鹸でよく手洗いしましょう
特にこれら排泄物の処理は、妊娠している方やお子さんにさせないよう注意しましょう。可能であれば、高齢の方や持病がある方もお身体に影響する危険性がありますので、避けるようにして下さい。
また、嘔吐物や排泄物で汚れたものを洗濯する際は、他の洗濯物と分けて行いましょう。通常の洗剤で構いませんので、2度洗うようにすると効果的です。
散歩や運動(ドッグラン含む)
こちらも獣医師からの指示がなければ、特別制限する必要はありません。ただ、皮膚にしこりができている場合や手術を受けている場合は、他のワンちゃんネコちゃんとの過度な接触は避けましょう。舐められたり引っ掻かれることで、しこりの周りや術部から細菌感染してしまう可能性があります。
散歩や運動中に排泄するワンちゃんネコちゃんが抗がん剤治療を受けている場合は、トイレのところで解説したように、その排泄物の処理を確実に行いましょう。回収が難しい屋外でのおしっこに関しては、他の子に曝露してしまわないよう十分に洗い流す必要があります。
お風呂やトリミング
体調をよく観察しながらであれば、お風呂に入れてあげること、トリミングを受けさせてあげることも可能です。ペットサロンなどでトリミングをお願いする場合は、まずは相談してください。獣医師からトリミングの許可をもらった上で、トリマーさんには
「どこにがんが見つかったのか?」
「どんな治療を受けているのか?」
「扱う上での注意点」
などを事前に伝え、トリミングができるかどうか確認すると良いですね。
ワンポイントアドバイス
皮膚にしこりがある場合は、出来るだけ直接触らないように注意しましょう。肥満細胞腫と呼ばれる腫瘍は、刺激が加わることで、ワンちゃんネコちゃんの全身にさまざまな影響が生じる可能性があります。
また、身体の内側(例えば、肝臓や脾臓)にがんが見つかったワンちゃんネコちゃんでは、お腹を強く圧迫しないよう気をつけて下さい。グッと力が加わることで、肝臓や脾臓のがんが破裂し、お腹の中で出血(腹腔内出血あるいは血腹と呼ばれます)が起こってしまう可能性があります3)。
ベッド
がんの治療とともにワンちゃんネコちゃんの身体が弱ってくるとベッド(=寝床)にも注意が必要です。特に、長時間同じ姿勢で寝ることが多くなると、床ずれ(褥瘡とも言います)が生じやすくなります。
通常、骨が突出している部分に床ずれが起こる傾向にあります。具体的には、腰の部分の大腿骨と呼ばれる太腿の骨の付け根や後ろ足、肩周りなどが挙げられ、筋肉や脂肪が減るとより床ずれが起こりやすいです。そのため、低反発素材などの市販の床ずれ防止マットをベッドに敷いて予防しましょう。寝返りを打てないワンちゃんネコちゃんは数時間ごとに姿勢を入れ替えてあげる必要があります。
さいごに
ワンちゃんネコちゃんにがんが見つかったとしても、今までしていたことやできていたことを出来るだけ維持してあげましょう。がんがあるからと言って生活を大きく変えることは、ワンちゃんネコちゃんにとってストレスになる可能性もあります。また、がんの種類や治療法によっても注意点は異なります。
そのため、分からないことは聞いてくださいね。私たちスタッフと一緒に、ワンちゃんネコちゃんの力になっていきましょう。
参考文献
1) Freeman L.M., 2012. J Vet Intern Med 26(1):3-17
2) Suzuki M et al., Survey on the safe handling of anticancer drugs in veterinary medicine. Jpn J Pharm Health Care Sci. ; 41: 373-87. 2015.
3) Michael G Aronsohn et al., 2009. J Am Anim Hosp Assoc 45(2): 72-7