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糖尿病になるのは人だけではないんです!!

日本人と糖尿病

「糖尿病」という言葉を聞いたことがない方はいらっしゃらないと思いますが、みなさんは「糖尿病」のことをどれくらいご存知でしょうか?
厚生労働省の「国民健康・栄養調査」1)(公開されている最新のものは2019年版)では、日本の成人男性の約20%、成人女性の10%がすでに糖尿病と診断されている、もしくは、糖尿病にきわめて近いと示されています。

糖尿病の原因はなんといっても肥満です!

糖尿病の原因を細かく分ければ色々ですが、肥満ほど影響力の大きい原因はありません。なお、肥満や生活習慣を原因として成人がかかる糖尿病を「2型糖尿病」と呼びます。

人間では、糖尿病を適切に治療しなければ神経障害、網膜症(失明)、腎症(腎不全)、脳梗塞、心筋梗塞などの恐ろしい合併症が起こり、患者の生活や生命が脅かされるばかりか、高額の医療費がかかって社会的な損失につながります 2)。このため、生活のなかで食生活を見直し、運動を取り入れて肥満を避けるように、国はさまざまな情報を発信しています(厚生労働省e-ヘルスネット)3)。それでも日本人の糖尿病は減っていません。糖尿病は合併症が起こるまで自覚されにくいため、他人事だと思ってしまうのが理由かもしれませんね。

猫の糖尿病

今から30年ほど前、猫の糖尿病はとても珍しい病気でした。獣医大学の内科の偉い教授が「猫には糖尿病がとても少ないのだよ。その理由が分かったら(人間に応用して)大儲けだ」とまじめに言っていたほどです。30年前に猫の糖尿病が少なかったのは猫の寿命が短かったからです。1990年代には、動物病院を受診させてもらえる猫ですら寿命は6〜8歳程度でした4)。現在でもおもに8歳以上の猫が糖尿病にかかります。当時の猫は糖尿病にかかりやすい年齢に達する前に他の理由(感染症や交通事故など)で亡くなっていたのです。

1990年代以降にペットブームが起こり、猫が室内で飼育されるようになり、ワクチンなどの予防薬が普及し、食事(フード)が良くなった結果、猫の寿命は飛躍的に伸びました。しかし糖尿病やがんをはじめとするシニア猫の病気も増えました。

現在では猫の糖尿病はとてもありふれた病気です。おもに8歳以上の猫がかかります。オスのほうがメスより2倍かかりやすいです。猫の糖尿病の原因はなんといっても肥満です。糖尿病の原因を細かく分ければ膵炎など色々ですが、肥満ほど影響力の大きい原因はありません。このように猫の糖尿病は人間の2型糖尿病によく似ていて、実は膵臓の細胞レベルの変化もそっくりです。

ぽっちゃりした猫を愛でる気持ちはたいへんよく理解できますが、猫がシニア年齢に達したときに肥満が糖尿病のリスクになることも理解したほうがよいでしょう。

こんな症状があるときは注意

猫が糖尿病にかかると少しずつ体調の変化がおきますが、一見元気にも見えます。変化を見過ごしていると病状が進行して「糖尿病性ケトアシドーシス」という危険な状態に陥ることもあります。できるだけ早期に発見するために、次のような症状がみられたら一度当院に相談してください。
尿の量や回数が多い
尿がべたつく
普段より水を多く飲む
蛇口や風呂場の水を飲みたがる
食べる量が増えているのに痩せてきた
歩くときに腰がふらふらする
ジャンプを失敗する(ジャンプしなくなった)
さらに病状が進行して糖尿病性ケトアシドーシスになると次のような状態になります。この場合は最低でも数日入院して適切に治療しなければ生命にかかわります。
元気がない
ぐったりして動かない
目が落ちくぼんでいる
食べない
水を飲まずに見ている
胃液を吐く
息が臭い(除光液の臭い)
毛がバサバサになっている

診断

猫の糖尿病の診断は難しくありません。以下の3項目を満たせば「糖尿病」と診断されます。
糖尿病の症状(上述)がある
2回以上、血糖値が高い
2回以上、尿糖が陽性
いったん糖尿病と診断されたら、全身をくまなく調べて胃腸炎、膵炎、口内炎、歯肉炎、膀胱炎、腫瘍、他のホルモン異常などの病気を解決して、はじめて適切な糖尿病治療ができます。

治療

猫の糖尿病は、インスリン注射と補助的な食事療法の組み合わせで治療することが一般的です。インスリン注射している猫の20%程度は、治療中に次第にインスリンが必要なくなる(寛解)に至ります。また、条件が揃えば飲み薬で治療することもできます。

猫の糖尿病合併症

猫の糖尿病は人間の2型糖尿病とそっくりですが、違うのが糖尿病合併症です。猫が糖尿病にかかると神経障害のために腰がふらついたりジャンプできなくなることがありますが、これは適切に治療(血糖コントロール)すれば治ります。人間のように網膜症(失明)、腎症(腎不全)、脳梗塞、心筋梗塞になることはありません。このため、幸いなことに、猫は糖尿病になっても適切に治療をすれば元気で生活でき、他の病気にかからない限りは寿命を全うできます。

おわりに

いかがでしたか?糖尿病は放っておいても自然治癒する病気ではなく、進行すると命に関わるような状態にまで陥ってしまう危険性もある病気のひとつです。一番のサインは“多飲多尿”ですので、体調の変化に気付いた場合は当院に相談してくださいね。
参考文献