下部尿路疾患、何だか少しむずかしい言葉ですが、聞いたことはありますか?
下部尿路疾患とは、尿が作られて貯留、排泄される尿路のうち、下部尿路にあたる膀胱と尿道の片方、または両方に起こる病気の総称です。犬猫の両方でみられるこの下部尿路疾患ですが、犬と猫では少し特徴が違っており、猫はよく腎不全になりやすい、といったことを耳にすることもあるように、猫にとって泌尿器系の病気は身近な存在です。
今回は猫の下部尿路疾患についてのお話です。
下部尿路疾患とは
尿が作られて排泄されるまでに関わっている臓器である腎臓、尿管、膀胱、尿道を「尿路」と言い、そのうち腎臓から尿管を「上部尿路」、膀胱から尿道を「下部尿路」と呼びます。この下部尿路で起こっている病気を下部尿路疾患といい、これには膀胱炎や尿道炎、尿路結石といったものがあります。
下部尿路疾患の症状は主に頻尿、血尿、トイレ以外での排泄、などといった尿の見ためや排尿時のネコちゃんの変化です。
もし結石や炎症でできた栓子(炎症によって白血球や組織から剥がれ落ちた細胞などが集まってできたかたまり)などが尿道に詰まっている場合、排尿する素振りはするものの、尿は出ていない、といった症状もみられます。
詰まっているせいで尿がでない「閉塞」という状態が続くと急性腎不全を引き起こし、命にかかわってくる場合もあるため早急な対応が必要です。この尿道閉塞を示すのは、ほとんどが男の子です。というのも、男の子の尿道は女の子に比べて細くて長く、曲がっているため、結石や栓子が詰まりやすい構造となっているからです。
下部尿路疾患の種類
人でも尿路結石や膀胱炎などは馴染みのある病気ではないでしょうか。猫も似ている病気は多く、下部尿路疾患の種類について紹介します。
尿路結石 尿にはさまざまな成分のミネラルが含まれていて、通常は尿に溶けたまま排泄されるのですが、何らかの原因によって尿路の中でミネラルが結晶化、さらに塊となったものを尿路結石と呼びます。この尿路結石の代表的な種類として「ストラバイト」と「シュウ酸カルシウム」の2つが挙げられます。
尿路結石が作られやすいかどうかは、尿のミネラル濃度とpHが関与しています。ミネラルの濃度が高いと結石ができやすくなるため、ミネラルの量を適切に調整する、ミネラル濃度を下げるために尿の量を増やす、さらにストラバイト結石の場合はアルカリ性の尿で形成されやすいため、逆の酸性に傾ける、などの対処が必要です。
ストラバイト結石は、リン酸アンモニウムマグネシウムを主成分とする結石で、結石の生成に尿中のマグネシウム量の増加や尿量の減少、pHのアルカリ化などが関わっています。このストラバイト結石は食事療法といって、療法食により結石を溶かすことが可能です。 シュウ酸カルシウム結石は、尿中のシュウ酸やカルシウムの増加、尿量の減少が関わっていますが、一度作られてしまった結石は療法食では溶かすことはできません。この場合は手術によって結石を取り除く必要があります。厄介なことに、このシュウ酸カルシウムは、近年増加しているとも考えられています。
膀胱炎 膀胱炎とは膀胱の中で炎症が起きている状態であり、膀胱結石や細菌感染によるもの、特発性膀胱炎といったものがあります。
膀胱結石とは、さきほどの尿路結石が膀胱内にある場合のことを言います。この結石が膀胱の中をころころ転がって膀胱の壁を傷つけ、それによって炎症、つまり膀胱炎が起こってしまいます。また、尿道を介して外から侵入してきた細菌が感染し、細菌性の膀胱炎が起こることもあります。
これらの原因以外にも猫の場合「特発性膀胱炎」というものがあります。特発性とは、原因がわからない、突発的に起こるという意味で、現在もこの特発性膀胱炎が起こる原因ははっきりとしていません。
特発性膀胱炎とは?
特発性膀胱炎は猫でみられる原因不明の膀胱炎です。もともと猫は飲水量が少なく尿が濃くなりやすいこと、ここに幼少期のストレス、トイレ環境の不整備なども関与するのではないかと考えられています。じつは猫の下部尿路疾患のうち、この特発性膀胱炎が最も多く、全体の約60%を占める、という報告があります1)。
特発性膀胱炎の治療は炎症や痛みを緩和するための投薬を行いますが、繰り返すことも多いため、ストレスを取り除くように環境の見直しをおこなうことも大切です。
自宅でできること
下部尿路疾患の予防として、しっかり飲水してもらい、ストレスを取り除くことはとても重要です。そのために自宅ですぐに取り組める、少しの工夫をお伝えしたいと思います。
水の種類 新鮮な水であると同時に、好みのタイプを見つけてあげてください。例えば氷水のように冷えた水が好きな子や、少しぬるめの水が好きな子、流水だとよく飲む子など、さまざまです。ささみや鰹節を茹でた水を少し混ぜて風味を増してみても良いかもしれません。
水器について 水器はトイレから離れた場所に置き、ネコちゃんが落ち着ける場所の近くなど、離して複数個置くことをおすすめします。
また、水器は他の子と共有せずに清潔にしてください。材質を変える、口の広いタイプにするのも効果的である場合があります。
ウェットフードに変える ドライフードと比べて、ウェットフードは水分を多く含んでおり、ドライフードの約15倍 もの水分を含むと言われています。
トイレの見直し トイレの個数は頭数+1がいいとされています。もし2頭のネコちゃんと暮らしているならトイレは3個にするなど、個数を増やしてみてください。また、トイレのサイズはネコちゃんの体長の1.5倍以上、砂の深さがある程度しっかりあるもの、清潔であることなどもポイントです。
トイレの置き場所は休息場所や食器から話して設置してください。砂もその子の好みがあるため、色々なものを試してみてください。
もちろん今挙げた方法で、全ての下部尿路疾患を予防できるわけではありません。特に寒い季節になるとネコちゃんの飲水量が減ってしまうため、下部尿路疾患のトラブルは多くなります。
血尿や頻尿、ネコちゃんの排泄時の様子など、いつもと変わったことがあれば病院への来院をおすすめします。特に尿をする素振りはするけれど出ていない場合は緊急性が高いこともあります。
少しでも多くのネコちゃんがおしっこトラブルに悩まずに生活できますように。
参考文献
1)B Gerber et al., 2005. J Small Anim Pract 46(12): 571-577