thumbnail
感染したら亡くなる病気~狂犬病ワクチンが義務なワケ~
“狂犬病”は日本では名前は聞くけれども、あまり馴染みのない感染症ではないでしょうか。

もしかしたら動物病院で言われたから何となくワクチンを打っているけど、本当に必要なの?なぜ打つのが義務なの?と感じている方もいるかもしれません。じつはとても恐ろしい感染症でもある狂犬病について、今回はお話しします。

狂犬病とは?

狂犬病とは狂犬病ウイルスによる人獣共通感染症であり、すべての哺乳類がこのウイルスに感染します。感染すると治療方法はなく、ほぼ100%死亡する病気です。

日本は狂犬病の発生がない清浄国ですが、イギリスやオーストラリア、ニュージーランドなどの一部の国を除く全世界では、今も狂犬病の発生が認められ、年間約55,000人が亡くなっています。1)つまり、海外では現在でもほとんどの国で感染する可能性がある感染症なのです。

実は1970年、2006年、2020年にそれぞれ日本国内での狂犬病による死亡例が報告されていますが、全てが海外で感染し、日本へ帰国・入国した後に発症しています。1)このように海外で感染してしまう可能性や、感染した動物が日本へ入ることでウイルスを持ち込んでしまうリスクがあります
日本から狂犬病がなくなるまで
狂犬病予防法が制定される1950年以前は、日本でも人が狂犬病に感染し、死亡していました。狂犬病予防法が施行され、犬の登録、予防注射、野犬等の抑留が徹底されるようになり、7年という短期間のうちに国内の狂犬病を撲滅することができました。
日本での感染は人では1956年、動物では1957年の猫での発生を最後に、現在まで報告はありません。1)

どのように感染がおこるのか

狂犬病に感染した動物に咬まれ、唾液中のウイルスが傷口より体に侵入することで感染します。体内に侵入したウイルスは、末梢神経を介して脳までたどり着き、そこからさらに様々な各神経組織に伝わることで、深刻な神経機能障害が見られます。また、唾液腺で大量にウイルスが産生されるため、唾液中にウイルスが存在します。

人に感染させる主な動物は犬ですが、すべての哺乳類が感染する可能性があり、地域差があります。アジアでは犬・猫、アメリカやヨーロッパではキツネやアライグマ・コウモリ・スカンク・犬・猫、中南米ではコウモリ・猫・マングースが主な感染源動物です。

狂犬病が人から人へ感染することはありません。ただ、非常にまれなケースとして臓器移植を介して感染したという報告があります。1)

狂犬病に感染するとどうなる?

犬が感染した場合には次のような経過をたどります。

まず感染してから2週間~2ヶ月程度の潜伏期間(症状が認められない期間)を経て症状が現れ始めます。1)その後、前駆期、狂躁期、麻痺期と3期の経過を辿って最終的には死亡してしまいます。

前駆期
初めは性格や行動に変化がみられます。挙動不審や過敏になる、飼い主に反抗する、遠吠えなどの症状がみられます。
狂躁期
異常に興奮するようになり、異嗜(土や石などを食べる)、音や光に対する過敏な反応、吠え声の変化、嚥下困難(飲み込めない)、筋肉組織の痙攣(けいれん)発作などが見られます。痙攣発作中に死亡しなければ麻痺期に移行します。
麻痺期
全身に麻痺が現れて歩行できなくなり、嚥下困難や流涎、下顎下垂が認められ、最終的に昏睡状態となり死亡します。


死亡した後に組織を調べ、そこからウイルスを検出することで、狂犬病の確定診断をします。
また、猫が狂犬病に感染した場合は、犬よりも攻撃性がより認められやすくなりますが、基本的には犬の症状とよく似ています。

人が感染した場合

人が感染した場合、潜伏期は1~3ヶ月程度と言われていますが、1年以上してから発症した、という報告もあります。1)発症するまで狂犬病を診断する方法はなく、発症した後に皮膚や髄液、唾液からウイルスを検出することで診断します。発症すると致命的となってしまいます。

発症したあとは前駆期、急性神経症状期、昏睡期と3期の経過を辿って、犬と同様に最終的には死亡します。

前駆期
食欲不振や発熱、頭痛、咬傷部位の痛みやかゆみといった症状が見られます。
急性神経症状期
不安や興奮状態に陥る、恐水・恐風症状、幻覚や麻痺・精神錯乱などといった神経症状が見られるようになります。
昏睡期
やがて意識がなくなり昏睡状態となり、呼吸障害が現れて死に至ります。

診断や治療

犬では診断のための検査でも、検査をする人が狂犬病ウイルスに暴露するリスクがあるため、生前の確定診断は難しいです。また、発症すると治療することは不可能です。

人では感染動物に咬まれた場合、暴露後ワクチン接種を行う必要があります。狂犬病発生国に行き頻繁に動物に接するなどの感染のリスクがある場合は渡航前に狂犬病ワクチンを接種しておくことが望ましいとされています。

さいごに

狂犬病はとても恐ろしい感染症であり、予防することがどれほど重要か、今回の話で理解していただけたと思います。

日本では発生していない感染症にも関わらず、毎年のワクチン接種が義務付けられているのは、それほど徹底した感染症対策が必要である、ということです。

現在のように狂犬病清浄国であることを保ちながら、万が一狂犬病ウイルスが日本に持ち込まれた場合でも、被害が最小限に抑えられるように、ぜひワンちゃんに狂犬病の予防接種を受けさせてあげてください。
参考文献