フィラリアは聞いたことがあるし薬も使っている、でも言われてみればどんな病気…?いつ、どうやってかかるの?人はフィラリア症にはならないの?
知っているようでなかなか奥が深いフィラリア。
この機会にフィラリア症を知って、フィラリアからあなたのワンちゃんを守ってあげませんか。
フィラリア症って?
フィラリア症とは犬や猫、フェレットなどの多くの哺乳動物に、犬糸状虫(フィラリア)と呼ばれる寄生虫が肺動脈や心臓に寄生することで引き起こされる病気であり、この寄生虫は蚊によって運ばれてきます。フィラリアの成虫には雄と雌がいて、最長30cmにもなる大きな寄生虫です。1)
フィラリアが犬に寄生するまで
フィラリアはどうやって犬の体の中に入り込むのでしょうか。
まず、フィラリアに感染している犬の血液を吸うことで蚊の体内にフィラリアの子虫(ミクロフィラリア、L1)が入り込みます。蚊の体内に入ったミクロフィラリアは、蚊の中で2回脱皮してL1→L2→L3と成長し、犬に感染ができる幼虫(L3)になります。この幼虫を体内に持つ蚊が犬に吸血すると、蚊の吸血部位からL3が、蚊から犬の体の中へと侵入します。
犬の体に侵入した感染幼虫は…?
犬の体に侵入した感染幼虫(L3)は、犬の皮膚の下(脂肪や筋肉)で2回脱皮してL3→L4→L5と成長し、侵入してから3~4ヶ月で肺動脈(心臓から肺へ繋がる血管)へと移動します。肺動脈に辿り着いたL5は成虫にまで成熟し、雄と雌で交配をおこなってミクロフィラリア(L1)をどんどん増やします。
犬の体に侵入してから約6~7ヶ月でミクロフィラリアが生まれます。この状態になってしまった犬が蚊に吸血されると、蚊にミクロフィラリアが入り込み、蚊の体内でL1→L2→L3へと成長します。やがてその蚊が別の犬を吸血することでL3が犬の体内に入り込み、さらにフィラリアが広がっていきます。2)
フィラリアに感染するとどんな症状がでるの?
寄生する数にもよりますが、少数の寄生では特に症状がなく、感染に気づかないこともあります。多い場合は200匹以上寄生すると言われています。1)
フィラリアは主に肺動脈(心臓から肺に向かう血管)に寄生しますが、その場所にいる事自体が大問題になるわけではありません。(よほど寄生する数が多くて負荷がかかっている場合は血管が詰まってしまいますが…)
フィラリアが寄生することにより肺動脈血管の内側が傷ついたり炎症が起きて血管の壁が厚くなり、血液をしっかりと肺へ送ることができなくなります。そうなると、心臓がその分頑張って血液を肺へ送り出そうとし、心臓に負担がかかってしまうようになります。また、肺自体にも炎症が起きてしまいます。
認められる症状には、活動していてもすぐに疲れて動かなくなる(運動不耐性)、咳がでる、呼吸が荒くなるなどの心不全の徴候や、体重が減るといったものがあります。また、肝臓や腎臓、赤血球なども侵されてしまいます。失神が見られることもあり、この状態になるとかなり病気が進行しているので亡くなってしまう恐れもあります。
フィラリアに感染しているかどうやって検査するの?
昔から実施されてきた方法として、犬の血液中にミクロフィラリアがいるか顕微鏡で調べる方法があります。また、近年では血液を使った検査キット(成熟した雌のフィラリアが作るタンパク(抗原)を検出する仕組み)を使って検査する方法もあります。
フィラリアに感染している場合の治療は?
治療の適応と判断した場合には成虫のフィラリアを駆虫する薬を使うことがありますが、死滅したフィラリアが血管に詰まっていき、かえって悪化させてしまうリスクがあります。
高齢だったり、他に病気を抱えている犬、あるいは無症状~非常に症状が軽度の犬の場合はミクロフィラリアを薬で取り除き、成虫のフィラリアの寿命を待つ、という対症療法を選びます。ただこの場合、成虫のフィラリアの寿命は5~7年であり、フィラリアの数が徐々に減っていくのを待つしかないため、かなり長い期間を要します。1)
やっぱり大事な予防~フィラリアに感染しないために~
上にあげたように、フィラリアに感染してから治療することは、ワンちゃんにとって少なからずリスクがあり、負担がかかってしまいます。予防すればフィラリアはほぼ100%感染を防ぐことができるので、ワンちゃんを守るためにしっかりと予防してあげてください。
フィラリアの予防薬には色々な種類があります。飲ませるタイプの錠剤やおやつタイプのもの、皮膚に滴下するもの、注射タイプもあります。フィラリアと同時に他の寄生虫に対しても効く予防薬もありますので、一緒にどのタイプの薬が合っているか決めていきましょう。
予防薬のことでご家族によく聞かれるのが「去年の予防薬が余っているから使ってもいいか」という質問です。使用期限が切れていなければ使うことは問題ありませんが、必ず守ってほしいことがあります。
それは、「検査を受けて陰性を確認してから予防薬を使う」ということです。
予防薬は犬の体内に侵入してきたフィラリアが成虫になる前に駆虫する、という仕組みです。もしこれを多数のミクロフィラリアが体内にいる犬に投与してしまうと、多数のミクロフィラリアが死滅して急激なアレルギー反応が起こすことがあります。ひどい場合は犬が死に至ることもあります。ですので、必ず検査をして陰性を確認してから予防薬を使ってくださいね。
さいごに
最後にひとつ驚きの話をすると、実は人の体内にもフィラリアが侵入してくることがあります。侵入経路は犬と同じように蚊に吸血されることです。ただ、犬と違って人の体内では、フィラリアは成熟することができません。ごくごくまれに幼虫が肺、眼、脳、精巣に住み着くすることがあるため、やはりフィラリア予防をしっかり行い、フィラリアを体内に持つ蚊をなるべく減らすことが重要ですね。
参考文献
1) Textbook of Veterinary Internal Medicine 第7版 Client Information Sheets Heartworm Disease
2) Textbook of Veterinary Internal Medicine 第7版 p1353