”心筋症”は、猫で最も多く見られる心臓病ですが、その発見や治療には、犬の心臓病とは少し違った難しさがあります。
今回はそんな猫の心筋症について、ご家族が知っておいてほしい特徴をご紹介していきたいと思います。
猫の心筋症とは?
心筋症とは、名前の通り心臓の筋肉に異変が生じます。どのような異変かというと…
心筋が異常に分厚くなって心臓の内腔が狭くなって拡張出来なくなる
心筋がうまく収縮できないために心臓の内腔が広くなって心筋が薄くなる
このように、血液を全身に送る役割をする心臓が、うまく機能できず全身に血液を送りだせなくなると、その結果うっ血性心不全(血液がからだにうっ滞してしまう状態)になります。
心筋症には心筋が分厚くなる”肥大型心筋症”や、収縮力が低下し心臓が大きくなった”拡張型心筋症"など、いくつかの種類があります。
猫ちゃんでは特に肥大型心筋症が多く認められます。

では、どのくらいの確率で猫に心筋症は見つかるのでしょうか?
症状のない健康な猫ちゃんを対象に、肥大型心筋症の有無を調べた過去の研究では、有病率が15%前後であったそうです1)。さらに、猫の年齢が上がるにつれて心筋症の有病率も高くなり、9歳以上の猫では29.4%だったと報告されています2)。
一見健康そうな猫でも30%近くの猫がこの心筋症にかかっている、というデータはびっくりですね。
さらに、生後2ヶ月齢であっても心筋症が見つかったケースもあり、若いからと言って完全に無関係ではないのも心筋症の難しいところです。
心筋症と診断される猫ちゃんの品種は、雑種が最も多いとされます。
ただ、メイン・クーンやラグドール、ペルシャ、ブリティッシュ・ショートヘア、ノルウェージャン・フォレスト・キャットなどの猫種では、肥大型心筋症を発症するリスクが高いと考えられています1)。
どうやって診断するの?
心臓の病気、と聞くと心雑音を思い浮かべる方も多いかもしれません。犬の心臓病は心雑音が聞こえることが多く、心雑音は聴診器ひとつで確認できるため、聴診は普段の診察でおこないやすい検査のひとつです。
では、猫の心筋症も心雑音が聞こえることが多いのでしょうか?
じつは猫の場合、心雑音がなくても心筋症であることがとても多いです。症状のない心筋症の猫のうち、心雑音が聞こえるのは40%程度だと言われています3)。
つまり、症状のない心筋症の猫のうち、半分以上の猫では心雑音がないため、普段の聴診などの身体検査だけでは気付くことができない、ということです。実際、聴診で心音を確認して問題がないとされた猫ちゃんに心筋症が見つかるケースは少なくありません1)4)。
逆に心雑音が聞こえても心筋症ではない、というケースもありますよ。若い猫だったら先天性の心臓奇形だったり、成長期に見られる生理的雑音(正常でも聞こえる)だったりもします。
心雑音がなくても心筋症の可能性があり、逆に心雑音があっても心筋症でない可能性もある…
じゃあどうやって心筋症を診断するの!?
混乱してきますよね。
そこで活用したいのが検査機器です。レントゲン検査、超音波検査によって心筋症があるかどうかを診断します。
特に”心臓超音波検査(心エコー検査とも言います)”を受けることで、心臓がきちんと動いているのか? 心筋の壁が厚くないのか?などを詳しく調べることができます。つまり心筋症を見逃さないためにも、症状がなくても、定期的にこの心エコー検査を受けることをおすすめします!

心筋症の症状
心筋症の猫は症状がない場合もありますが、徐々に進行すると ”うっ血性心不全”や、心臓内でできた血栓が全身の血管に詰まってしまう”血栓塞栓症”を発症することも多く、発見が遅れると命に大きく関わります。
うっ血性心不全による症状は次のようなものがあります。
などが見られますが、これらの多くは心不全によって起きた胸水や肺水腫が原因です。
さらに、心臓内にできた血栓が全身の血管に詰まる血栓塞栓症を生じると、
などの症状も同時に見られることがあり、治療が遅れるとそのまま亡くなる危険性も高いです。
もしこれらの症状がみられるようであれば、動物病院へすぐに来院してください。
初期の心筋症は症状が出ないことも多く、残念ながら進行して心不全になってから初めて症状が見られて、そこで診断されるケースも少なくありません。

猫の心筋症との付き合い方
心不全を発症してから治療を始めても、長く元気に過ごすことが難しいのも猫ちゃんの心筋症です。
過去の報告には、うっ血性心不全・血栓塞栓症のどちらか、または両方を発症してから死亡するまでの期間は平均1.3年だったとあります5)。
ただ、この報告では発症して24時間以内に死亡した猫が除かれています。心不全から間もなく亡くなってしまう可能性も高く、そのような猫を合わせると死亡するまでの平均期間は、もっと短いかもしれません。
大切なのはそうなる前に発見してあげることですね。
繰り返しになりますが、心筋症の診断には心臓超音波検査が必要です。
心筋症と診断された場合、定期的に進行度合いを心エコーで確認しながら、うっ血性心不全や血栓塞栓症にならないように内科治療を行います。
また、最近では血液検査で心臓病の存在を調べられるバイオマーカーの測定もできるようになっています。
ネコちゃんの性格などによっては超音波検査が難しい場合もありますので、気になる方は是非一度、動物病院に相談してください。
参考文献
1) Luis Fuentes V., Abbott J., Chetboul V. et al. ACVIM consensus statement guidelines for the classification, diagnosis, and management of cardiomyopathies in cats. J Vet Intern Med. ; 34(3): 1062-77. 2020.
2) Payne J.R., Brodbelt D.C., Luis Fuentes. Cardiomyopathy prevalence in 780 apparently healthy cats in rehoming centres (the CatScan study). J Vet Cardiol. ; 17 Suppl 1: S244-57. 2015.
3)Christopher F Paige et al., 2009. J Am Vet Med Assoc 234(11):1398-403
4)kittleson M.D., Cote E. The Feline Cardiomyopathies: 1. General concepts. J Feline Med Surg. ; 23(11): 1009-27. 2021.
5)Fox P.R., Keene B.W., Lamb K. et al. International collaborative study to assess cardiovascular risk and evaluate long-term health in cats with preclinical hypertrophic cardiomyopathy and apparently healthy cats: The REVEAL Study. J Vet Intern Med. ; 32(3): 930-43. 2018.