郵便配達の人に吠える、窓の外に見える人や自転車に吠える、散歩中にすれ違う人や犬に吠える…など、ワンちゃんの無駄吠えに悩んでいるご家族もいるでしょう。
無駄吠えとは、吠える必要のない場面で吠えることです。犬にとって“吠える”という行動はごく自然な行動ですが、それが人間にとって都合が悪い、対応に困る場合に“無駄吠え”と解釈されます。
以前は犬を番犬として庭で飼う家庭も多くありましたが、最近では大型犬もコンパニオンアニマルとして室内で一緒に暮らす人が増えました。こうした背景があるなかで、都会の集合住宅に住むご家族にとって、長い時間大きな声で吠えている無駄吠えは問題になることが多く、なんとか吠えるのをやめてほしい、と考えている方も多いのではないでしょうか。
無駄吠え(過剰咆哮)の原因・種類
なぜ無駄吠えをするのでしょうか。
それは、その子の性格や成長期の生活環境、今の生活状況が大きくかかわっています。もともと犬が吠えるのは自然な行動であり、犬種による遺伝もあります。吠える傾向にあるのはビーグル、ダックスフンドなどのハウンド種、ジャーマン・シェパード・ドッグなどの牧羊種、ミニチュア・シュナウザーなどのテリア種、チワワやプードルといった愛玩種などです。
日本では欧米と比べて吠えることが問題視されがちですが、それは日本での飼育環境が背景にあると考えられています。どうしても日本では十分な生活スペースを確保することが難しく、エネルギー発散が不十分な場合、ストレスによって吠えるという行動につながってしまいます。また、子犬が母犬や兄弟犬と離れる時期が早いことも多く、不安を感じやすい、犬同士の社会化不足となった結果、吠えるという行動をとります。
犬が吠える目的には色々な種類があります。
なわばり意識、警戒 来客や宅急便など、家に来る人に対して吠える、散歩中に出会う人や犬に対して吠えることがあります。逆に挨拶行動や遊びとして吠える犬もいます。
恐怖 チャイムや花火など、音に対しての恐怖から吠えることがあります。
社会的促進 他の犬の吠え声につられて吠え始めるケースです。元々群れで生活していたため、他の犬が反応する姿を見て同じ反応をします。
要求や自己主張のため 家族が帰宅した時、散歩やご飯を要求する時、遊んでほしい時などに吠えることがあります。
痛み 痛みを訴えるために吠えることがあります。
分離不安 家族と離れることに対して極度に不安を感じることで、飼い主さんが外出する準備をすると落ち着きがなくなり、外出中に吠え続けることがあります。
認知症 昼夜逆転の生活、グルグルと徘徊する、呼びかけに反応しない、などの症状がある認知機能不全のことを言います。この認知症の症状に、何かきっかけがあるわけではないのに吠え続ける、といった行動をすることがあります。
治療
治療はその子の行動をよく知ったうえで個々の対応が必要となることが多いため、全てが以下に当てはまるわけではありませんが、いくつかの例をあげます。なお、痛みや認知症などによる吠えについては行動学的修正ではなく、疾患そのものへの治療介入が必要になるものもあります。
治療の一例① ~コマンドに従う~
ご褒美(おやつ)を使いながらワンちゃんに楽しく、お座り、伏せ、待てなどのコマンドに従うことを教えます。この“コマンドに従う”ことが出来るようになると、無駄吠え対策にも使うことができます。
例えば散歩中に出会う犬や人に吠えてしまう場合、犬や人との距離はしっかりあけた上で、吠える前にお座り、などのコマンドを出してご褒美を与えます。そのまま継続しておやつを与えれば、他の犬や人よりもおやつに気を取られ、吠えずにその場を終わらせることができます。これを繰り返すうちに、他の犬や人の存在に気付いても吠えずにご褒美を待つようになります。
コマンドに従うことをどうやって教える??
おやつを爪ほどの小さいサイズにして用意し、片手でいくつか持ち、その手は後ろに回して隠しておきます。その状態で「お座り」とコマンドを出し、そこでワンちゃんがお座りをすればすぐに褒めてご褒美をひとつ与えます。もし、本来ならお座りができるワンちゃんなのに興奮してコマンドに従ってくれないようであれば、一旦終了します。おやつは絶対に与えずに、ワンちゃんが落ち着いたら同じことを再開してみてください。
こちらの出すコマンドに反応したらご褒美、というのを何度か繰り返します。初めはできなくても、毎日少しずつ練習すれば出来るようになると思います。
ちなみにこの練習を終了するときには、最後はワンちゃんが必ず従うコマンドを指示し、成功してご褒美を与える、という方法をとり、楽しく終わらせてあげてください。
治療の一例② ~刺激に対しての系統的脱感作、報酬を使った逆条件付け~
系統的脱感作とは、不安や恐怖を感じる事柄を、少しずつ段階的に暴露しながらその不安や恐怖を緩和していくことです。
玄関のチャイムが鳴ると訪問者に対して吠える場合を例に挙げてみますね。
玄関のチャイムに慣れてもらう方法 ① ドアの見えるところで「おすわり」をさせ、出来たらご褒美をあげる
② 「まて」をその場所で教える(参考:
https://wan-nyan-kurashi.com/dog/mate/)
③ 「まて」をしている間録音したチャイムの音を小さい音で鳴らす
④ 「まて」のまま、吠えなかったら報酬を与える。吠えてしまったら、もっと小さい音にして②の「まて」からやりなおし。
⑤ 「まて」→ピンポン→吠えずに待てた→ご褒美 がうまくできたら、ピンポンの音を少しずつ大きくして③から⑤を繰り返します。
⑥ ドアの前で「まて」→玄関を開け閉めする→待てていたら報酬、吠えたらやり直し
⑦ 上記のように刺激を少しずつ足して録音したピンポンが鳴っても、玄関の所に行っても吠えずに「まて」ができるようにします。
実際に知り合いに呼び鈴を鳴らしてもらう練習 ① 「まて」→協力者が呼び鈴を押す→「まて」を再度伝え、吠えずにいたら報酬
② 協力者には外にいてもらって何度も呼び鈴を押してもらい、都度「まて」をさせる→吠えなかったら報酬、吠えたら、「まて」のやり直し
③ ②の方法は興奮して難しい場合、犬が知っている人に呼び鈴を押してもらい、中に入ってその人に犬におやつを与えてもらう
④ 知り合いでできるようになったら、犬が知らない人に呼び鈴を押して入ってもらい、ご家族がおやつを与える。
⑤ 徐々におやつを与える前に「おすわり」「まて」をさせてから報酬を与えるようにする
治療の一例③ ~負の罰~
ご家族の気を引くために吠える場合には「あっ!」と言い、ワンちゃんの視界から消えるようにその場から立ち去ります。立ち去る時間は30秒以内で大丈夫です。これを要求吠えするたびに繰り返すことで、吠えると自分の大切なものが消えてしまう、と学習します。
さいごに
病院で診断して薬を飲めば治る、といった病気と違い、問題行動の治療は自宅でのご家族の協力が不可欠であり、長期におよぶことも多いです。自宅で実践してもらわなければいけない事もあるため、ご家族の苦労もあると思います。
それでも、問題行動がなくなれば、ワンちゃんとの絆はさらに深まり、お互いに楽しく過ごせるのではないかと思います。もしなにかワンちゃんの行動で困っていることがありましたら、専門の先生をご紹介することも可能です。
一度当院までご相談ください。