thumbnail
犬の子宮蓄膿症のはなし(ショート版)
子宮蓄膿症はヒトにでも起こる病気ですが、もしかしたら動物(特に犬)の方がより身近な病気かもしれません。

私たち動物病院スタッフは、未避妊の中高齢犬の女の子が体調不良で来院した場合、必ずこの子宮蓄膿症の可能性はないだろうか…と頭の片隅に置きながら診察をします。それほど私たちにとっては身近な病気であり、早く治療してあげたい病気のひとつです。

子宮蓄膿症って?

子宮蓄膿症は名前の通り、子宮の中に膿が溜まる病気です。

英語で「pyometra(パイオメトラ)」と表記するので、「パイオ」という呼び名を耳にすることもあるかも知れません。猫でもたまに遭遇しますが、ほとんどの場合は中高齢の犬でみられます。

大腸菌や膣の常在菌が子宮に侵入しても、通常であれば自分の免疫で防御できますが、免疫バリアが低下していると感染が成立して子宮蓄膿症が起こります。この病気が中高齢でよく見られるのは免疫が関連しているからですね。

またさらに、ホルモンの影響で免疫バリアが低下することが分かっており、犬の生理(ヒート)の中のあるタイミングで子宮蓄膿症になりやすいと考えられています。

犬は、陰部からの出血が見られたあとに発情期がやってきます。

発情期は平均9日間であり、だいたい4日~24日程度で終わります1)2)。その発情期が終わってから8週間以内が最も子宮蓄膿症にかかりやすいと言われています3)

なので、陰部からの出血がみられた後、しばらくの期間が子宮蓄膿症になりやすい、と何となく知ってておくと良いかもしれませんね。

子宮蓄膿症の症状

子宮蓄膿症の一番分かりやすい症状は、外陰部から膿が出ていることです。ただし、自分で舐めている場合や、子宮の中に膿が溜まっていても子宮の入口が閉じているとぱっと見は分からないこともあります。

他の症状は、食欲や元気の低下、多飲多尿、発熱、血尿(実際は血尿ではなく子宮から血や膿が出て尿と混じっている)、お腹の張りなどがありますが、これは他の病気でも認められる症状なので、症状だけで子宮蓄膿症と断定するのは難しいです。

また、
すこしずつ体調が悪くなってくる子もいれば、急にぐったりして状態が急激に悪化する子もいるので、体調の変化に気が付いたときは早めの受診をおすすめします。

子宮蓄膿症の治療

根本的な治療は外科手術であり、卵巣と子宮の両方を取り除く手術を行います。
状態が悪く手術に耐えられなさそうな場合には、まずは点滴や抗生剤などの内科療法によって状態を回復させてから手術を行います。

手術の方法はいわゆる避妊手術とおなじ、子宮と卵巣を取り除くことですが、健康な状態での避妊手術とは状況が異なり子宮の中に膿が溜まっている状態です。子宮の破裂や腹膜炎が起きている可能性もあり、身体への負担やリスクは通常の避妊手術よりとても高くなります。

予防はできる?

確実な予防方法は卵巣と子宮を取り除く避妊手術をおこなうことですので、もし出産を考えていない場合には避妊手術を受けることを検討してみてくださいね。

さいごに

私たちが避妊手術をすすめる理由のひとつには、この“子宮蓄膿症を予防できる”という点があります。その他にも避妊手術を若いうちに行うことで乳腺腫瘍の予防にも繋がるため、気になる方は是非相談してくださいね。
もし避妊していない子が上に挙げたような症状が見られる場合、様子をみるのではなく、なるべく早く受診することをおすすめします。普段からワンちゃんの発情の周期を知っておくのも大切ですね。
参考文献
1)Christie D.,Bell ET., 1971. J Small Anim Pract 12:159-167
2)Bell ET, Christie DW. Duration of proestrus, oestrus and vulval bleeding in the beagle bitch. Br Vet J. 1971;127:xxv–xxvii
3)A P Davidson. Et al., 1992. J Am Vet Med Assoc 15;200(6)825-8