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犬もドライアイになる?!~症状から治療方法まで~
ワンちゃんネコちゃんが何か体調を崩しても、すぐには症状として現れない病気も多くありますよね。

それに対して眼は外観上、異変に気付きやすそうな部位ではあります。しかし実際は、意外と変化を見落としがちな場所でもあり、眼の病気には短期間で一気に進行してしまうものもあります。人間と同じように動物にもいろいろな眼の病気があり、今回お話するのは犬では比較的よく遭遇するドライアイになった時の症状や診断・治療などのお話です!

ドライアイとは?どんな症状?

ドライアイは、涙の構造が破綻し、涙の質や量が変わることで目の表面に障害がでる病気です。とくに、涙液が減ってしまうタイプのドライアイを通称“乾性角結膜炎(Keratoconjunctivitis sicca:KCS)”と呼びますが、犬ではこのKCSが比較的多いです。

また、このドライアイが起こる様々な原因のうち、犬で最も一般的な原因は自己免疫によるものです。自分の免疫が涙腺に対して攻撃することでドライアイが起こり、好発犬種はパグ、シー・ズー、アメリカン・コッカー・スパニエルなどが挙げられます。

ドライアイの症状・診断

ドライアイになると次のような症状がでてきます。
眼をショボショボさせる(羞明)
結膜の充血や浮腫・角膜の乾燥
目やに・涙やけ
まぶたのけいれん
さらに進行すると角膜炎や角膜に色素が沈着したり血管が出来たりします(血管新生)。角膜の色素沈着や血管新生がひどいと見えづらくなり、視覚にも影響が出るため、注意が必要です。

診断にはスリットランプ(眼科で使う拡大鏡のようなもの)などを使って視診を行い、以下の検査を組み合わせて行います。
シルマー涙試験
シルマー試験紙を下まぶたに挟み、1分間でどの程度の涙が試験紙に染み込むかで、涙液量が不足していないかをチェックします。この検査では涙液減少型ドライアイであるKCSを診断することができます。
シルマー涙試験の涙の量で、以下のように考えていきます。1)
>15mm/分:正常範囲
10~15mm/分:グレーゾーン
5~10mm/分:KCSが疑わしい
<5mm/分:KCSと診断
シルマー涙試験


涙液層破壊時間(break-up time :BUT)
眼の表面がしっかりと涙膜で覆われているかどうかを検査するために、フルオレセインという色のついた液体で眼の表面を染色し、その染色液が何秒間眼の表面にとどまっているかを調べます。
涙液層破壊時間
正常な涙液層破壊時間
フルオレセイン染色試験
角膜に傷が出来ていること(角膜潰瘍といいます)が疑われる場合は、フルオレセイン染色液で眼の表面を染色することで傷がないかの検査も行います。
ドライアイの診断法が変わる!?
人の医療では2016年にドライアイの定義と診断基準が改訂され2)、これまで検査方法のゴールドスタンダードとされていた、涙の水分量を計測するシルマー涙試験と角結膜の傷を調べる生体染色試験(フルオレセイン染色試験)がその診断基準からはずれました。それ以降、症状と涙の目の表面への安定性を評価する涙液層破壊時間(BUT)だけで診断が行われることとなっています
獣医領域でも今後このような考え方に変わっていく可能性もありますね。

治療

人医療での新しい視点が獣医療でも取り入れられてきています。

これまでの犬のドライアイ外来では水分量を測るシルマー涙試験だけを行って、涙の水分自体が減るタイプの涙液減少型ドライアイ(上に載せた写真)のみをドライアイとする、というこれまでの考え方が変化してきており、現在では涙の水分補充に加えて、涙の膜を目の表面に安定させる ための点眼治療も行われています。

主におこなう治療は以下のとおりです。

ちなみに、薬剤によってドライアイが起きている場合は、また正常に戻ることもありますが、たいていの場合は一度発症すると生涯に渡ってのケアが必要です。
炎症や潰瘍、細菌感染がある場合はそれに対しての治療をおこない、涙の成分をできるだけ正常に近づけ、涙液を保てるようにする。
KCSが起きている原因が犬で多い免疫介在性である場合、免疫抑制剤であるシクロスポリンを使用する。
涙液の油成分の分泌が滞っている場合、眼瞼縁炎の治療として抗生剤を投与したり、約38℃のジェルパックで眼瞼を温める(数分を1日2回)方法もある。これによって眼瞼縁の機能が回復すると、涙液がしっかり角膜上に留まることが期待できる。

さいごに

今回は犬で遭遇することの多いドライアイについてお話しました。

実はワンちゃんネコちゃんは眼に痒みや傷があると、気にして足で掻いたり壁にこすり付けることがあり、そういった行動で短時間のうちにあっという間に悪化することがあります。あれ?少し目を気にしている?充血してるかも、などの異変に気が付いた場合は、お早めに来院してくださいね。
参考文献
1) Pier Luigi Dodi. 2015. Vet Med (Auckl) 6: 341-347
2) Norihiko Yokoi and Hiroaki Kato. 2013. 京府医大誌 122(8): 549-558 

画像提供:どうぶつ眼科専門クリニック 辻田裕規先生