① 胃拡張・胃捻転症候群とは?
この病気は、その名の通り、急に胃がパンパンに膨れたり、捻じれてしまうような病気です。
よく遭遇する病気ではありませんが、いったん発症するとどんどん具合が悪くなって、治療が遅れると数時間で命を落とすことになる緊急性のある怖い病気なのです。

② 胃拡張・胃捻転症候群になりやすいのはどんな子?
大型犬に多いのは有名ですね。大型犬の中でもグレ-トデン、ジャーマンシェパ-ド、ラブラドルレトリバー、スタンダ-ドプ-ドルなどの胸の深い犬種に起こりやすいと言われています。
以下は、ある夜間救急病院での胃拡張・胃捻転症候群の来院割合です。

↑CAP No.324より抜粋
あれ?大型犬じゃないのが入ってるよ?と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そうなんです。小型犬でも、ミニチュアダックスやウエルシュコ-ギ-のような、「胸の深い、胴の長い犬種」には、大型犬並みに胃拡張が多くみられるのです。
スパニエル系の子にも雑種にも多いですし、猫にもまれに見られます。
犬種以外のリスク要因としては、「ご飯の一気食い」「食べてすぐ激しく動く」「1日1回の給餌」「高い台に食器を載せて給餌」「親にこの病気の既往歴がある」「加齢」などがあります。
これらを考えると、ミニチュアダックスやウエルシュコ-ギ-は、たいがいの子が食いしん坊で、ガツガツと一気に食べ、ガブガブと水を飲み、すぐ遊びだしてしまう…と当てはまることが多いですね。
さらに高齢になると、胃の運動機能が衰えるとともに、胃を支えている靱帯が伸びて支えが緩み、胃下垂のような状態になってしまうので、さらに胃拡張を起こしやすくなるのです。
この病院では、胃拡張症例の3割がミニチュアダックスだそうです。
ネオでも高齢のミニチュアダックスやコッカ-スパニエルに発症が見られました。
シニア期を迎えたミニチュアダックスの子たちは、特に要要要注意です!!


また、私の経験では、お家でパンを焼くのが流行った頃、パン焼き器に入れる前の発酵中のパンのタネを盗み食いして、お腹がこれ以上膨らめないくらいキンキンになってやってきたヨ-クシャ-テリアや、枝豆を食べ過ぎて、胃がガスでパンパンに膨れてしまった雑種の子もいました。豆類は、発行してガスを産生しやすいので、胃拡張の原因になりますので控えてください。
膨れるものや、ガスを産生しやすいものは、犬種に関係なく危険ですので絶対に与えないようにしましょう!
高い台に食器を載せて食べさせるのが良くないのは?
頭が上がると、床の上に置いた食器から自然な姿勢で頭を下げて食べる場合よりも空気を吞み込みやすい。
頭が上がると、首が曲がらず楽なので、食べるスピ-ドが加速する。
性格によって胃拡張・胃捻転になりやすい子がいる…?!
ある研究によると、臆病な犬の方が胃拡張胃捻転になりやすいことが分かりました。この理由として、不安感などの負のストレスが加わることによって、胃腸の機能や動きに影響がでてくるのではないかと考えられています。1)
③ 胃拡張・胃捻転が起こるとどうなる?
●胃が異常に拡張したり捻じれたりすると、胃への血流が途絶え、徐々に胃が壊死します。
●捻じれていると、胃の中のガスが出て行かないので、内容物の消化や発行に伴いガスが発生し、さらに急激にパンパンに膨らんでいきます。
●胃が捻じれるときに、すぐ横にある脾臓も一緒に巻き込むことが多く、脾臓の血流も断たれ、壊死することもあります。
●膨らんだ胃によって、周りの血管が圧迫され、全身の血液循環が低下し、低血圧、不整脈、ショックを引き起こし、数時間で一気に病状が悪化します。
●致死率は、20~45%²⁾といわれており、早く治療を開始できるほど救命率も上がるので、少しでも早く異変に気付けるようにしましょう!
④ こんな症状が見られたら注意!
次のような症状が見られたら、胃拡張や胃捻転が起こっているかもしれません。
特に、好発犬種で「吐きそうで吐けない」というのは、典型的な胃拡張・胃捻転症候群の症状です。このような症状に気づいたら、すぐに受診してください。
❶気持ち悪そうに落ち着きなく歩き回る。
❷よだれが多い。
❸吐くそぶりをするが吐けない。
❹お腹がいつもよりも異常に膨らんでいる。
❺だんだんぐったりする。
❻歯茎が白い
夕食後数時間たった夜中から明け方に起こることが多いので、夜間でも様子を見ずに、夜間救急病院へ!
寝る直前のドカ食い、睡眠時の胃腸運動の低下、寝姿勢だとゲップやおならが出にくいなどが理由。
人も寝る前2時間は何も食べないように言われます。寝る直前に食べさせないようにしましょう。
好発犬種、高齢の子は特に注意!近くで寝るようにして、気付けるようにしましょう!

⑤ 診断と治療
症状やレントゲン所見、血液検査によって診断しますが、一刻を争う状況ですので、検査と治療を同時進行で行います。
まずは、点滴や胃のガスを抜くことで全身状態を改善させ、捻転であれば、整復手術を行います。壊死している部分を取り除き、胃の捻じれを戻し、再発防止のために胃を固定する手術を行います。
胃拡張だけであれば、胃腸運動を改善するお薬や点滴で内科的に治療します。
⑥ 予防
好発犬種の子と暮らしておられる場合、普段から以下のことに気をつけてあげたら少しでも発症しづらくできると思います。
1回でも胃拡張・胃捻転症候群になったことのある子は、再発の恐れがありますので、以下のことに気をつけるのはもちろん、胃腸運動を改善するお薬など内服での予防も必要です。
❶食事を小分けにして与える。1日1回でなく、2-3回以上に。1回量を少なく。
❷早食い防止グッズを使って時間をかけて食べさせる。
❸食後は2時間くらい安静に。相手をして興奮させず、サ-クル内などでゆっくり休ませる。
❹ゲップをさせる。
大型犬は、伏せの状態で背骨のすぐ下(肋骨の付け根あたり)を優しくトントンと叩く。
小型犬は、人の赤ちゃんの場合と同じように縦にして肩に載せ、なるべく身体をまっすぐ一直
線にして背中を優しくトントンたたく。
❺食後の水のがぶ飲みを避ける。
水を少ししか入れないとか、少し飲んだら取り上げて後で何回かに分けて与えるなど。
❻散歩が先、ご飯は後。
お腹いっぱいで散歩に行かないこと。
散歩から帰って、ハアハアという息が治まって落ち着くまで待って食事を与えること。
❼胃拡張・胃捻転症候群になったことのある子との繁殖は避ける。
➑好発犬種の場合は、避妊手術の時に胃壁を肋骨に固定する手術を同時に行うこともあります。


⑦ 最後に
この病気は、いかに早く気づいて、いかに早く治療を開始できるかにかかっています。
特に好発犬種の子と一緒に暮らしておられるご家族は、この記事の内容をいつも頭の片隅に置いておいてくださいね。
ネオ動物病院
津村泰子
参考文献
1)Lawrence T. Glickman et al., 2000. Journal of the American Veterinary Medical Association 216(1): 40-45
2)Katy M Evans.,Vicki J Adams., 2010. J Small Anim Pract 51(7):376-81