あなたのワンちゃんは体をよく掻くことがありますか?
ちょっと搔いてるけれどいつの間にか気にしなくなっている、という軽いものから、しきりに掻いていて皮膚に傷ができている、夜眠れないほど掻いている、といったひどいものまで、かゆみの程度はさまざまです。特に睡眠の妨げになるほどのかゆみがあると、ワンちゃん自身のQOL(生活の質)が低下してしまうので、なるべく早くかゆみを取り除いてあげたいですよね。
実は皮膚トラブルで動物病院に来院するワンちゃんはとても多く、短期間で治療が終了するものから生涯治療を続けていく必要があるものまで、かゆみの原因となる病気の種類はさまざまです。今回は犬のかゆみが起きる原因や、病院に連れていく前にご自宅でできることをお話します。
こんな行動していませんか?
かゆがる仕草といえば後ろ肢で体や耳をかいている姿が目に浮かぶと思いますが、それだけではありません。噛む、舐める、家具や地面に体や顔をこすり付ける、などといった行動もかゆいときの仕草のひとつです。
ワンちゃんが体を掻く行動は普段からよくみかけると思います。その行動が短時間で、自然とおさまるのであれば、病的なかゆみではないのかもしれません。同じような部位をよく掻いているようであれば、その部分の皮膚をチェックしてください。
もし皮膚に脱毛や赤みなどの異変がある場合は、早めに対処してあげることで早くかゆみから解放してあげられるでしょう。
かゆみの原因
次に、かゆみの原因で考えられることを紹介します。
換毛やストレス 換毛期に体に毛がまとわりつくことでかゆみを感じることがあります。柴犬など、ふわふわで大量に毛が抜けるワンちゃんは、特に換毛期にはこまめにブラッシングしてあげてください。
また、お留守番などの暇なとき、一人になった時に前肢をよく舐めたり噛んだりしていませんか?もともと皮膚にトラブルがなくても精神的なことから前肢などを気にしてしまう。舐める、噛むを繰り返すうちに皮膚に炎症がおきて、その部分をさらに気にする…といった悪循環に繋がることがあります。もしこういった様子があるようなら、暇そうにしている時には知育玩具などのおもちゃを使ってみてもいいかもしれません。
細菌や真菌 人と同じように、犬の皮膚の表面には常在菌が存在します。皮膚の怪我や他の感染症、栄養不良や代謝の異常、生まれつきの皮膚の構造異常など、さまざまな理由によって皮膚のバリア機能が低下することで常在菌である細菌が異常に増え、炎症が起きます。
このように細菌によって引き起こされる皮膚の炎症を“膿皮症(のうひしょう)”と言います。また、真菌のマラセチア(カビの一種)による皮膚炎もありますが、このマラセチアも常在菌と同じように、正常な皮膚にも少数存在しています。
寄生虫 ノミなどの肉眼でも見える寄生虫から、顕微鏡を使わないと確認できない疥癬(カイセン)や毛包虫(ニキビダニ)などといった寄生虫まで、いろいろな種類の寄生虫が皮膚にトラブルを引き起こします。
かゆみがある犬に対して皮膚の検査を行ってこれらの寄生虫がいないか調べます。一度の検査では見つからないこともありますが、万が一の寄生を考えて、再検査や駆虫薬(予防薬)を使う場合もあります。
中でもミミヒゼンダニと呼ばれる寄生虫は耳に寄生するのが特徴で、真っ黒な耳垢をつくります。寄生された犬は、耳をとてもかゆがります。また、こういった寄生虫の中には人にも感染するもの、病気を媒介するものもいるので、そもそも寄生されないように予防薬を使うことをおすすめします。
顕微鏡でみえる毛包虫
耳に寄生したミミヒゼンダニ
ノミ(ノミアレルギー) 犬がノミに咬まれた時に皮膚に傷ができ、痒みが生じます。ノミに対してアレルギーを持っていない犬の場合は、その咬まれた部分だけに皮膚のトラブルが起こりますが、ノミアレルギーを持っている犬の場合、咬まれた時に体内に入ってくるノミの唾液に対してアレルギー反応を示すため、広い範囲で痒みや皮膚のトラブルが起こります。
ノミアレルギーでみられる症状として、おしりやしっぽの付け根、鼠径部(そけいぶ:大腿部の付け根あたり)をガジガジと噛んだり引っかいたりすることが多いです 。急激な強い痒みを伴い、皮膚が真っ赤になり、見た目にも炎症が強く見られることがあります。
食物アレルギー 食べ物に含まれる、ある特定のタンパク質に対して起こる過剰な免疫反応のことです。食物アレルギーの症状は皮膚のかゆみ、赤みや脱毛、外耳炎などといった皮膚症状や軟便や下痢、嘔吐などの消化器症状です。
食物アレルギーを診断するには、まず先に述べた寄生虫や細菌感染などを除外する必要がありますが、これらの感染症と食物アレルギーが同時に起こっていることもあります。また、次に紹介する犬アトピー性皮膚炎とも似ており、併発していることもあるので順序立てて検査し、診断していく必要があります。
犬アトピー性皮膚炎 犬アトピー性皮膚炎は環境中のアレルゲン(花粉や室内のダニなど)に対する過剰な免疫反応によっておこる皮膚炎です。アトピーはその子の体質であり、遺伝的要因があると言われています。アレルギーの原因物質が存在すること、皮膚のバリア機能が低下すること(これによってアレルゲンが体内に侵入)、侵入したアレルゲンに体が異常な免疫反応を起こす体質、などの要因が重なってアトピーを発症します。
犬アトピー性皮膚炎になりやすいとされている犬種は柴犬、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリア、シーズー、フレンチブルドッグなどです。また、アトピーは皮膚炎が起こる場所にも特徴があり、しわの部分を主体に次のような 部分1)をかゆがることが多いとされています。
アトピーの症状は若いうちにでてくる?
犬アトピー性皮膚炎は、初めての症状が3歳以下2)と、若い年齢で見られるのが特徴です。実は初めの頃は、皮膚の赤みや脱毛などといった炎症は見られず、かゆみだけがあります。かゆみが継続することで徐々に皮膚に炎症が起きてくるようになります。
中高齢になって初めてかゆみが出てきた、という場合は犬アトピー性皮膚炎ではなく、ほかの原因かもしれません。
かゆみの原因をつきとめるための検査
かゆみの原因にもいろんな種類があることが分かりましたね。どの原因でかゆいのかを調べるには、検査が必要です。検査方法には次のようなものがあります。
皮膚をかゆがるその裏側には、ひとつの病気だけでなく、複数の原因が隠れている場合も多いです。そのため、検査は必要に応じて複数回おこなうこともあります。
皮膚の顕微鏡検査 皮膚の表面や毛、組織、細胞などを顕微鏡で観察します。ここで寄生虫や細菌、真菌の感染がないか調べます。
血液検査アレルギーがあるかどうかを調べる検査、かゆみの原因である成分(アレルゲン)を特定するための検査があります。
除去食試験食物アレルギーを疑う場合におこなう検査です。そのワンちゃんのかゆみの原因になっていそうな成分(アレルゲン)が使用されていないフードを、ある一定期間食べてもらい、かゆみなどの症状が減少するか確かめます。フードの効果を正しく判断するため、これを食べさせている期間は決められたフードと水以外は、おやつなども食べないように頑張る必要があります。
食物負荷試験食物負荷試験は除去食試験とセットで行います。除去食試験をおこなった後に、アレルゲンが含まれているフードを食べて、かゆみが再発した場合、そのアレルゲンに対する食物アレルギーであることが確認できる、といった方法です。フードの効果を正しく判断するため、これを食べさせている期間は決められたフードと水以外は、おやつなども食べないように頑張る必要があります。
病院に連れていく前、治療中にしておくと良いチェック
まだ病院には連れて行っていないけれど、ちょっとかゆみがありそうだな…病院に連れて行ったほうがよいのかな…と悩むときもあるかもしれません。掻いているところの皮膚がなんともなく、少しのかゆみであれば、1日程度様子を見て、それでもかゆみが続く、悪化しているようであれば来院されると良いでしょう。
皮膚が赤くなっている、傷ができているのであれば、早めに対応してあげると、その分、早くかゆみを治してあげることができると思います。また、病的かどうかよくわからないけれど、そういえばよくかゆがっているかもしれない…と思った方は、次の項目をメモしておくと診断の手助けとなることも多いです。
さいごに
かゆみには特に治療せずともおさまるもの、少しの治療で治るもの、落ち着いたと思っても何度も繰り返してしまうもの、何らかの治療が継続して必要なもの、など対応はさまざまです。
当院では、6月から皮膚科の専門診療がスタートしています。かゆみ、皮膚のトラブルなどで気になる方は、ぜひ相談にいらしてくださいね。(※皮膚科は予約制となりますので、事前にお電話にてお問合せください)
参考文献
1)Patrick Hensel et al., et al., 2015. BMC Veterinary Research 196
2)Claude Favrot et al., 2010. Veterinary Dermatology
画像提供:犬と猫の皮膚科 村山信雄先生