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犬の椎間板ヘルニアとは?自宅でできること
抱き上げたら急に「キャン」と鳴いた… 気づいたら後ろ足をひきずって歩いている…

椎間板ヘルニアの症状は、何の前ぶれもなく急にあらわれることもあります。
言葉を話さないからこそ、突然の行動の変化にはしっかり気付いてあげたいですよね。

今回は “椎間板ヘルニア” についてのお話です。

どんな病気?

背骨(脊椎と言います)は、とても大事な神経(脊髄)を取り囲んでいる骨であり、脊髄を保護しています。その脊椎同士の間には椎間板があり、脊椎が動く際のクッションの役割をしています。この椎間板が何らかの原因で飛び出して脊髄を圧迫すると、脊髄がきちんと機能できなくなります。このようにして神経の異常がでてくる病気が椎間板ヘルニアです 。


椎間板ヘルニアがよくみられる犬種はミニチュア・ダックスフンド、ウェルシュ・コーギーなどです。これらの犬種は「軟骨異栄養性犬種」と呼ばれ、そもそも遺伝的に椎間板ヘルニアになりやすいと言われています。

この軟骨異栄養性犬種の椎間板ヘルニアはI型椎間板逸脱症(ハンセンⅠ型)としてあらゆる年齢(若くても)で突然起こります。一方で全ての犬種で、特に中齢から高齢になってくるとゆっくりと、かつ複数箇所で起こる椎間板ヘルニアもあり、II型椎間板突出症(ハンセンⅡ型)といいます。

椎間板ヘルニアの症状

脊椎は首から尻尾まで並んでおり、ヘルニアが起きた部位よりも後ろ側で症状が出ます。
また、症状には次の5つの段階があります。
グレード1:痛み
痛みがあるが、神経の働きは正常で、歩行は正常にできる状態。背中をやや丸めていたり、ジャンプや段差を嫌がる、触るとキャンと鳴く、などの症状が多い。
グレード2:ふらつき
歩くときにややふらつく(足がすべったり、足の着く位置がおかしかったり)が、歩行はできる状態。歩行時に爪を擦る音がしたり、指先の毛が摩耗したり、傷になったりする。
グレード3:不完全な麻痺
後ろ足をひきずって歩くなど、4本足で歩くことはできない状態。自分の意志でおしっこをすることができ、足先をつねるとその痛みを感じることができる(表層の痛覚あり)。

最も多い胸腰部(腰)の椎間板ヘルニアでは、後ろ足がやや突っ張った状態で座っている状態。歩行時は前足だけで後ろ足は伸びたまま引きずって歩く。頚部(首)のヘルニアの場合,立つことができない(このため、頚部のヘルニアはこのグレード3まで)。
グレード4:完全な麻痺
さらに麻痺が進行し、浅部痛覚がなくなる。(表層の痛みを感じない) 自分の意志でおしっこができなくなる。
グレード5:完全な麻痺
骨など、体の表面から離れた深い部分の痛みも感じることができなくなる(深部痛覚の消失)。足先の骨の部分をペンチのようなものでつまんでもなにも感じない。

動画はグレード5のワンちゃんです

椎間板ヘルニアの診断

まずは動物病院で、症状の確認と身体検査や神経学的検査という方法で椎間板ヘルニアを疑い、レントゲン検査を行う事が一般的です。

ただし通常のレントゲン検査だけで椎間板ヘルニアが確定診断されるのはごく稀で、正しく診断するため(あるいは手術をするため)には脊髄造影検査やCT、MRIといった全身麻酔が必要となる検査を行う事になります。CTやMRI検査は画像検査センターや2次診療/専門病院で行います。

椎間板ヘルニアの治療

治療は大きく分けて内科療法外科療法があります。

痛みはあるが、少しふらつきつつも4本の足であるくことができる(グレード1〜2)、といった場合は炎症を抑える薬や、長期間の絶対安静(ケージレスト)で良くなるかみていきます。(内科療法)

一方で後ろ足が麻痺して引きずって歩く、自力でおしっこができないなど、グレード3以上の強い神経麻痺の症状がある場合は、外科手術の適応です。(グレード2でも手術の適応となることがあります)

症状が出てから手術するまでの時間が長くなればなるほど、その分歩行などの回復にも時間がかかると言われています。1)

ただし、重症度によって原因となっているもの(ヘルニアした椎間板物質)を手術で取り除いても症状が完全に元に戻らない場合もありますし、内科療法での治療中に徐々に悪化していくこともあります。また、椎間板はいくつもあるので、一度手術をして治っても、別の部位でまた椎間板ヘルニアが起こってしまうこともあります。

ということは一度治療が終了したあとも、再発や悪化が起こらないように、生活環境を少し工夫してあげることが重要です。

自宅でできること

好発犬種のワンちゃんや、一度椎間板ヘルニアになったワンちゃんなどは次のようなことに気をつけて生活させてあげてくださいね。
滑らない床にする
階段やソファのジャンプはしないようにする
適度な運動で筋力を維持する
肥満には注意する
肥満の犬はヘルニアのリスクがあがること、術後から歩けるようになるまでの時間が長くなることが分かっています。2)3)4)

一旦症状が無くなっても、外科手術をしない限りヘルニア自体はそのままの状態です。ちょっとしたことがきっかけで同じ部位の症状の再発、別の部位の椎間板ヘルニアが起こることがあるので、普段の生活から気をつけていきたいですね。
参考文献
1)Olby NJ, et al., 2022. J Vet Intern Med 36(5): 1570-1596

2)Levine JM, et al., 2006. Journal of the American Veterinary Medical Association 229(3): 370-375

3)Hansen H., 1952. Acta Orthopaedica Scandinavica 11(1): 1-117

4)Bray JP., Burbidge HM., 1998. Journal of the American Animal Hospital Association 34: 135-144

動画提供:長谷川 大輔先生(日本獣医生命科学大学 教授)