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短頭種は要注意!短頭種気道症候群とは?
犬は種類によって見た目が特徴的な犬種が多いですよね。少し前から、フレンチブルドッグやパグといった、短頭種と呼ばれるワンちゃんをよく見かけるようになりました。

今回はこの短頭種に特有の病気である「短頭種気道症候群」について深堀りしていきます。

短頭種気道症候群とは?

短頭種とは、いわゆる鼻ぺちゃな犬種を言います。例えばフレンチブルドッグやパグ、ボストンテリアなどが挙げられます。短頭種は鼻から喉にかけての上気道の形が特徴的で、この独特の形により起こる、呼吸がしづらいなどの呼吸器の病気をひっくるめて短頭種気道症候群と言います。

短頭種はもともと、外観上の鼻の穴が小さい(狭窄性外鼻孔)、軟口蓋という喉の奥の部分が長い(軟口蓋過長)といった、短頭種でない犬と比べて空気の通り道が狭く呼吸がしづらい形をしています。また、約60%で嘔吐などの消化器症状もみられます。1)

外鼻孔狭窄(鼻の穴がほとんど見えない)
短頭種の特徴
呼吸がしづらい状態で生活するにつれ、喉や気管の正常な部位にも変化が現れます。少し難しい単語ですが、喉頭小嚢反転や喉頭虚脱などといった、喉の形や動きにも異常が出てくるようになり、それによってさらに呼吸がしにくい状態になります。
短頭種は熱中症にもなりやすい?
よく短頭種の犬で常に口を開けてハァハァと呼吸している(パンティング)、呼吸する時にガーガー音がする、寝ている時にいびきをかいている、という様子が見られますが、これはその子の個性だと思っていませんか?実は、これこそが「短頭種気道症候群という病気の症状」であり、犬にとっては「頑張って呼吸している」状態なのです。

普段からこの状態で生活しているワンちゃんが、暑い外をお散歩したり、走り回って興奮するとどうなるのでしょう?聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、熱中症になりやすくなります

犬は私たち人間のように汗をかいて熱を逃がす、ということができず、主にパンティングをして口から熱を逃がします。通常の犬であれば身体に熱がこもるとパンティングをして身体の熱を下げ、徐々に元通りに落ち着きます。
しかし短頭種の犬は、もともと「頑張って呼吸している」状態なのです。ここに身体が熱くなってパンティングしようにも、上手く熱を逃がすことができない、さらに頑張って呼吸しようとする(パンティングが激しくなる、ガーガー呼吸音が大きくなる)、だんだん呼吸がしづらくなってくる、体温が下がらない…となり、熱中症になってしまいます。

短頭種気道症候群がひどくなるとどうなる?

このように熱中症リスクが高い短頭種ですが、熱中症になりやすいだけではありません。空気を取り込みにくい構造のせいで、普段から「頑張って呼吸している」状態を続けていると、喉の奥が腫れたり炎症を起こしたり、さらに様々な変化が出てきます。そうなるとさらに呼吸しづらくなる、という悪循環に陥ります

このような状態になると、熱中症でなくても興奮などのちょっとしたきっかけで、パンティングが激しくなる、高体温、嚥下しづらい、失神などといった、短頭種気道症候群の症状がどんどん悪化していきます。

短頭種気道症候群の診断

診断は外鼻孔の狭窄は外観で判断できますが、それ以外は外観では分からないため臨床症状と合わせて判断し、必要な場合はレントゲン検査や麻酔をかけての内視鏡検査を行います。

正常な喉頭(喉の奥)の内視鏡写真
喉頭の虚脱が起きている(内視鏡写真)
↑喉頭が虚脱し、空気の通り道がふさがってしまっている。
小嚢の外転(内視鏡写真)
↑喉頭小囊が反転し、空気の通り道が狭くなっている

短頭種気道症候群の治療

根本的な治療は外科手術です。外鼻孔が狭いようなら広げる処置、軟口蓋が長いのであれば切って短くする、喉頭小嚢が反転しているなら切除、などその異常が起きている部分に対してアプローチします。

短頭種気道症候群はさまざまな病態が重なり合って症状がでています。その中には喉頭虚脱など外科手術で治療できないものも含まれている場合があるため、1つのものを治療すれば必ず治る、というものではありません。

1歳未満で外鼻孔狭窄と軟口蓋過長の手術をした場合は96%改善したが、高齢で喉頭小嚢の切除や軟口蓋の切除を行った場合の改善率は69%に低下した、という研究データがあります。2)

短頭種気道症候群は、もともとの遺伝である短頭種特有の構造が病気のスタートになっていますが、時間をかけて徐々に進行していく病気です。つまり、まだあまり進行していない、症状が軽度のうちに治療する方が改善しやすいということですね

短頭種気道症候群の予防

残念ながら、短頭種気道症候群はその子の持って生まれた特徴からくるものなので、予防することはできません。ただ、悪化しないようにしてあげる事はできます。例えば暑い環境はなるべく避ける、過度に興奮させない、首輪でなく胴輪を使うと良いでしょう

また、肥満にも気を付けてあげてください。肥満になると舌や口蓋、気道周りに脂肪がつき、さらに呼吸がしづらくなると言われています。3)

先述したように、短頭種気道症候群は徐々に進行していく病気で、症状がひどくなってから手術を行っても改善しない場合があります。早期発見・早期治療がとても大切なので、愛犬が寝ている時にいびきをかいている、ガーガー呼吸している様子が見られる場合は、一度相談しにいらしてください。
参考文献
1) B. M. Kaye et al., 2018. JSAP 59(11):670-673
2) Harvey CE, 1982. JAAHA 18:535-567
3) Rowena M. A. Packer et al., 2015. Published online 10(10): e0137496

画像提供:AMC末松どうぶつ病院 末松正弘先生