ノミと同じように、動物の体の表面に寄生して吸血するマダニ。
マダニに吸血されると色々なトラブルが引き起こされます。また、人にも関わってくる寄生虫でもあります。皆さん“ダニ“と聞くと家の中の布団、食品に発生するダニを思い浮かべるかもしれませんが、それはヒョウヒダニやコナダニといった種類のダニです。ワンちゃんネコちゃんに関わってくるダニは”マダニ”というものであり、今回はこの、ワンちゃんネコちゃんに関わるマダニについてお話しします。
吸血するとカラダが5倍に⁉
マダニは8本足の節足動物で、大きく分けるとクモの仲間です。日本に生息するマダニは47種類おり、大きさはマダニの種類にもよりますが、犬猫に寄生する主なマダニ(フタトゲチマダニ)だと吸血前は約3mm、吸血すると約1.5cmにもなります1)。吸血することで体のサイズが大きく変化しますが、吸血する前のマダニも、小さいながらも一応は目で見えるということです。
マダニは自然豊かな森林や公園草むらなどで待ち伏せし、そばを通りかかった動物や人間に飛び移ってセメントのような物質を唾液と共に分泌し、それによって動物にくっついて寄生をスタートします。
マダニはどこに寄生する?
マダニは動物の体表に寄生しますが、特に毛が薄い部分(耳や目・口・鼻周り、胸、内股、お尻周り)に寄生することが多いです。もしマダニが寄生しているのを見つけたら、自分で取ろうとせずに動物病院へ連れていきましょう。
マダニは動物に対して、セメントのような物質でくっついており、無理に引っ張ってしまうと頭部だけが動物の身体に残ってしまい、化膿するかもしれません。
マダニのライフサイクル
マダニは卵→幼ダニ→若ダニ→成ダニ→産卵というライフサイクルですが、幼ダニ・若ダニ・成ダニの全ての発育段階で1回ずつ吸血を行います。
卵から孵化した幼ダニは動物に寄生して3~7日間吸血したあと地面に落下し、若ダニへと脱皮します。若ダニは幼ダニと同様に動物に寄生して3~7日間吸血したあと地面に落下し、成ダニへと脱皮します。成ダニは動物に寄生して1~2週間吸血して地面に落下し、メスは産卵します。十分に吸血したメスの成ダニは一匹で2000個もの卵を産むと言われており、その後生涯を終えます2)。このように、ダニは生まれてから生涯を終えるまでに3回も吸血するのですよ。
マダニに寄生されると起こること
マダニが多数寄生することにより、貧血になってしまうことがあります。また、マダニの唾液に反応してアレルギー性の皮膚炎が認められることもあります。さらに、唾液の中に様々な病原体を持っていて、吸血時にその唾液を介して動物に様々な感染症を運んできます。
次にマダニによって伝播する感染症を紹介します。
マダニが運んでくる病気
バベシア症(犬) バベシア原虫(非常に小さい寄生虫で、肉眼では見えません)はマダニの体内におり、マダニが吸血することで犬に感染します。バベシア原虫は犬の赤血球に寄生し、それにより貧血をはじめとした発熱や黄疸、血小板の減少など、様々な症状が現れます。
エールリヒア症 エールリヒア属リケッチアによって引き起こされます。少し難しい話ですが、リケッチアとは細菌ともウイルスとも少し違って、動物の細胞内でしか増殖できない微生物です。犬が感染すると、食欲不振、発熱や貧血、鼻汁(出血)、肝臓が腫れる肝腫大などをはじめとし、慢性期には眼の症状や血球減少症などといった、重篤な症状が見られます。
人に感染するリケッチアは犬に感染するものとは別の種類であるとされており、人の場合は日本紅斑熱という病気が、リケッチアによるマダニ媒介性の感染症です。
その他にもライム病やQ熱、野兎病といった感染症もマダニは媒介します。
要注意!重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について
先に紹介した感染症も問題ですが、現在最も注意すべきは重症熱性血小板減少症候群(SFTS)と呼ばれる病気です。2011年に特定されたSFTSウイルスがダニによって媒介される感染症であり、動物だけでなくヒトにも感染する人獣共通感染症です。
SFTSはマダニから動物や人への感染だけでなく、SFTSを発症した犬や猫などから咬傷や濃厚接触によって人へ感染したり、SFTSに感染した人から人への感染が確認されており、人の死亡報告も何例かあります。
現在日本では犬、猫、チーターがSFTSを発症した動物として報告されています3)。発症した場合の症状は、人と動物で似ており、発熱や食欲低下、消化器症状です。犬は人よりも症状が軽いですが、猫やチーターは人よりも症状が重く、さらに猫の致死率は約60%とも言われています1)。
ヒトでのSFTS
2022年7月31日時点での報告では、国内で763名の患者が報告されており、そのうち92名が亡くなっているという非常に怖い感染症です。詳しくは国立感染症研究所のホームページをご覧ください。4)
✔2023年4月、鹿児島県内でも人へのSFTS感染が報告されました。ペットのマダニ予防はもちろん、飼い主自身も気を付ける必要があります。
さいごに
ここまでお話ししたように、ワンちゃんネコちゃんがマダニに寄生されると直接的な被害や感染症の媒介など、色々なリスクがありますね。さらにマダニが媒介する感染症には人獣共通感染症もいくつかあり、特に最近注目されているSFTSは、危険性が高く気を付けなければいけません。
ワンちゃんネコちゃんのマダニ対策は、ワンちゃんネコちゃんを守ると同時に、ご家族の身を多くの感染症から守ることにも繋がるため、是非予防してあげてください。予防薬は色々な種類があるため、ぜひ一度相談にきてくださいね。