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グルテンフリーとグレインフリー、なにが違うの?
最近はいろいろなペットフードが販売されています。そのなかでグルテンフリーグレインフリーという言葉を聞いたことがありますか? それぞれどういったフードなのか、名前は似ているけれど違いはあるの? ここではそのような疑問についてお話しますね。

グルテンフリーやグレインフリーとは何?

〇〇フリーとは「〇〇が含まれていない」という意味です。「グルテンフリー」は「グルテン(麦類のタンパク質)が含まれていないフード」、「グレインフリー」は「グレイン(穀物全般)が含まれていないフード」という意味です。

グルテンは麦類(小麦、大麦、ライ麦など)に含まれていて、グルテニンとグリアジンという2種類のタンパク質が結合したものです。パンやパスタをあのような形にまとめてモチモチ感を出しているのはグルテンです。

ペットフードの素材としても、ドライフードを粒状にまとめるためにグルテンはとても便利なので、多くのペットフードには「小麦」または「小麦タンパク質」という表記でグルテンが含まれています。しかし小麦由来のグルテンを食べ続けることによってグルテンに対するアレルギー(または厳密にはアレルギーではないにしても何らかの健康上の不具合:不耐性と呼びます)が起こる可能性があることも問題になってきました。


人間には「セリアック病(Celiac disease)」と呼ばれ、小麦グルテンに対する不耐性を原因として、腸の栄養吸収に障害のでる病気があります。小麦を主食としている欧米人では100人に1人以上が発症するために大問題になっています。米を主食としている日本人ではセリアック病は稀ですが、ゼロではありません。

犬や猫でもグルテンによる軟便や下痢などの消化器症状、あるいは湿疹など皮膚症状はしばしば起こるため、グルテン(小麦タンパク質)を含まない「グルテンフリー」のペットフードが生まれました。

ただ、最近では「なんとなく健康に良さそう」というイメージから、小麦アレルギー(あるいは不耐性)ではないワンちゃんやネコちゃんにグルテンフリーのフードを与えている方が増えているようです。

この数年ほどでイネ科の穀物全般(米、麦類、トウモロコシ)を含まないグレインフリーのフードも流行り始めています。炭水化物(でんぷん)の元として穀類が使われておらず、かわりに豆類やイモ類が含まれています。グレインフリーもまた、「なんとなく健康に良さそう」というイメージが先行しているようです。
グルテンフリーが流行したきっかけ
「”グルテンフリー”が健康に良いかもしれない」という説が拡大するのに影響が強かったのは、テニスプレイヤーのノヴァク・ジョコビッチ選手でしょう。実家がピザ店だったジョコビッチ選手は小麦製品を食べなくなったことでテニスの成績が格段に良くなったそうです。2013年(日本語版は2015年)に出版された「ジョコビッチの生まれ変わる食事」という書籍では、麦類に含まれるグルテンを摂取しないことで、いかに彼のパフォーマンスが上がったかが力説されています。

その頃から「グルテンフリーは健康や美容に良いのだろう」という説やイメージが独り歩きして、小麦アレルギー(あるいは不耐性)ではない人々の間でもグルテンフリー食が流行するようになりました。 

グルテンフリーやグレインフリーのフードのメリット

麦類に対してアレルギーを持っていると分かっている場合、あるいは厳密にはアレルギーではなくても麦類が含まれた食事を与えると胃腸や皮膚に問題が出る場合は、グルテンフリーのフードを与えるメリットがあります。麦類に対してアレルギーを持っているかどうかは血液検査である程度分かりますが、微妙な結果が出ることも少なくありません。

麦類が含まれていない(つまりグルテンフリー)のフードを3-4週間与えてみて(おやつも麦類が含まれないものを与えます)、胃腸や皮膚の問題が解決または軽減すれば、アレルギーか不耐性を持っていると判断します。
このようなやりかたを「除去食試験」と呼びます。

米やトウモロコシに対してアレルギーまたは不耐性がある犬や猫には、それらの穀類が含まれていないフードを選べば良いですが、グレインフリーのフードも選択肢になります。

犬の原因不明の脳炎とグルテン

麦類のグルテンによる人間のセリアック病は前述しましたが、人間には「グルテン失調症」という病気もあります。グルテンに対する抗体ができてしまい、しかもその抗体が脳の細胞を認識して攻撃するために、歩行困難などの障害が現れます。治療としてグルテンフリーの食事を摂ることで症状は軽減されます。

犬では原因不明の脳炎がしばしば発生するのですが、それらの犬の体内から「グルテン失調症」でみられるのと同じ抗体がみつかっています1)この抗体が犬の脳炎の本当の原因であるかはまだ分かっていませんが、脳炎と診断されたワンちゃんにはグルテンフリーのフードを与えることをお勧めします

グルテンフリーやグレインフリーのフードのデメリット

小麦アレルギーや不耐性ではないワンちゃんやネコちゃんにグルテンフリーのフードを与えても、そのフードが信頼できるメーカー製である限り、健康上のデメリットはありません。ただし一般的にグルテンフリーのフードは高価です。

グレインフリーのフードは炭水化物(でんぷん)の原材料として豆類やイモ類を使っています。とくに豆類が原材料になっているフードは、穀物が材料のフードよりもタンパク質の割合が多くなりがちだと考えられるので、腎臓が悪い犬や猫に与えるときには注意が必要です。

また、アメリカ食品医薬品局(FDA:日本の厚生労働省と農林水産省に当たる国家機関)のレポートでは、グレインフリーのフードが犬の拡張型心筋症を誘発する可能性が指摘されています2)

フードと心筋症の因果関係はまだ明らかにはなっていませんが、現時点で「グレインフリーのフードは健康に良いのでしょう?」となんとなく犬に与えることはお勧めできません。あくまで穀物に対するアレルギーや不耐性をもつワンちゃんネコちゃんに対して、除去食の選択肢のひとつ程度に考えておくとよいでしょう
参考文献
1)Miho TANAKA et al., 2012. Journal of Veterinary Medical Science 74(6): 733-737
2)FDA U.S.FOOD&DRUG : FDA Investigation into Potential Link between Certain Diets and Canine Dilated Cardiomyopathy