ネコちゃんと暮らすご家族にとって“腎臓病”はとても身近な病気かもしれません。
ここ最近、SNSやネットなどの情報から特に高齢猫は腎臓病になりやすい、ということをご存じの方も多いでしょう。
ただ情報量が多すぎて、何を信じればいいのか、何に気をつけていればいいのか、判断しづらくなっていませんか?今回は正しく腎臓病のことを知ってもらうことで、腎臓病の早期発見、腎臓病の子の家での過ごし方の参考になればと思います。
慢性腎臓病とは?
猫の腎臓病には“急性腎障害”と“慢性腎臓病”とがあります。
急性腎障害(急性腎不全) 何らかの原因によって数時間~数日と短期間の間で、急激に腎臓がダメージを受けることです。原因には、尿結石や腫瘍によって尿の通り道が塞がってしまう、中毒物質や感染、脱水や心臓の疾患などにより腎臓への血液が減少してしまう、などが考えられます。
早急に治療を行うことで腎臓の機能を回復させることができることもありますが、場合によっては手遅れになってしまったり、そこから慢性腎臓病につながることもあります。
慢性腎臓病(慢性腎不全) 3ヶ月以上腎臓がダメージを受け、腎臓の働きが低下してしまうことです。初期の頃は症状があまりみられず、気づいた時にはすでに進行していることも珍しくありません。慢性腎臓病は高齢になるにつれてかかるリスクが高くなり、じつは10歳以上の猫の約30%が慢性腎臓病になるとも言われています。1)
慢性腎臓病の分類
慢性腎臓病は進行度合いによって大きく4段階に分かれています。(IRISのステージ分類2))1→4になるほど進行した病期となります。
この分類は主に血液検査の結果から分類され、このステージを目安に病気が進行していないかをチェックしたり、治療を決めたりしていきます。ステージ分類の詳細は下に記載したので、興味のある方は見てみてくださいね。
ちなみに以下に出てくるCreやSDMAは、血液検査で分かる腎臓の数値のことですよ。
ステージ1Cre<1.6(正常範囲内)、SDMA<18(正常範囲内か、わずかな上昇)である。持続的にSDMA>14となる場合は慢性腎臓病の早期発見の診断にも使う場合がある。いくつかの尿の異常がみられる。(腎臓以外の原因が考えにくい尿比重の低下、腎臓由来の尿蛋白、触診や画像所見での腎臓の異常など)
ステージ2Creが1.6~2.8、SDMAが18~25と軽度の上昇である。臨床徴候はみられないか、あってもごく軽度である。
ステージ3Creが2.9~5.0、SDMAが26~38である。臨床徴候はさまざまで、症状がない場合もあれば顕著な臨床徴候があることもある。
ステージ4Cre>5.0、SDMA>38である。全身の臨床徴候が増悪している。
症状
慢性腎臓病を患った猫は次のような症状がみられます。
うちの子にこれだけの症状が出てれば、きっとすぐ気づくはず!!
と思う方もいるかもしれません。
じつは来院して腎臓病だと診断されるネコちゃんは、食欲低下や飲水量が減少し、体重も減った状態でやってくることが多いです。体重が減っているということは、おそらくそれなりの期間、食欲の低下が続いていた、しんどい思いをしていた、ということが考えられますね。つまり、ここに挙げたような色んな症状が出てくる頃には、もう腎臓病が進行してしまっていると思った方がよいでしょう。できるだけもっと早い段階で異変に気付きたいものです。
じゃあどんな変化に気付けばいいのでしょう?
腎臓病を患って一番はじめにでてくる症状は“多飲多尿”です。
水を多く飲むことは良いことだと思っていた…なんて声も聞きますが、その子のいつもの量よりも“水を飲む量が増える”、“おしっこの量が増える”ことは、何か異変が起きているサインかもしれません。普段と比べてどうか、を気にかけてみてくださいね。この多飲多尿の段階で気づくと、早期に治療をスタートすることができると思います。
もしくは定期的に健康診断を受けていれば、気づかない程度の症状があったとしても早期発見につながるかもしれないため、やはり健康診断はとても大切です。
診断
身体検査の他に血液検査、尿検査、レントゲンや超音波検査を行います。
血液検査では腎臓の数値(BUN、Cre、SDMAなど)が上がっているのかをチェックしますが、BUNやCreといった腎臓の数値は、腎臓の働きが75%壊れてから上昇する1)、とも言われています。
画像検査(レントゲンや超音波検査)では腎臓の大きさや形、結石の有無などをチェックし、腎結石や腫瘍、水腎などといったものがないかを確認します。
また、慢性腎臓病の合併症として高血圧や貧血、電解質の異常がみられることもあるため、それらの項目も検査します。
治療
じつは、腎臓は一度壊れてしまうと元には戻せません。機能が残っている部分がこれ以上壊れてしまわないようにしていくことが治療のメインとなり、そのために次のようなことを行います。
療法食 腎臓の療法食はタンパク質、リンが制限されています。療法食をなかなか食べてくれない…というネコちゃんもいますが、さまざまなメーカーからドライフード・缶詰、パウチなどのタイプが販売されているため、色々と試していきましょう。
点滴 点滴には血管から行う静脈点滴と、皮膚の下に入れる皮下点滴があります。
投薬 腎臓の組織が壊れるのを抑制する薬や、尿からタンパクが漏れ出るのを抑える薬、高血圧を抑制する薬、貧血に対する薬など、その子の状態に応じて使います。
サプリメント 体内のリンが多くなると組織の石灰化につながるため、リンを制限することが推奨されています。リンを吸着して便と一緒に排泄するようなサプリメントや、機能が低下した腎臓から捨てきれない不要な老廃物を吸着して排泄するサプリメントがあります。
家でできること
慢性腎臓病と診断されると、今後ずっと腎臓病と付き合っていくことになります。ネコちゃんにもご家族にも負担が少ない治療、ネコちゃんがストレスを溜めないような生活を送れるとよいですね。
基本的に治療はご自宅でおこなってもらう投薬や食事療法(場合によっては点滴も)がメインとなります。もしなかなか療法食を食べない…投薬を嫌がるようになってきてむずかしい…などの困りごとがあれば、お声がけくださいね。
また、慢性腎臓病の猫ちゃんに水を飲んでもらうことも非常に大切です。普段からあまり水を飲まないネコちゃんがいれば、予防や病気の進行を抑えるためにも、ぜひ次のことを試してください。
色々なタイプの水を置いてみる水道水、ミネラルウォーター、お風呂に溜めた水など、その子の好みの水を探してみてください。また、器に入っている水よりも水道の蛇口から出る水を好むネコちゃんもいます。そういった子には噴水のように水が循環するタイプの給水器を使ってみてください。
器の材質にも好みがあるプラスチック、ステンレス、陶器、ガラスなど、その子の好みのものが見つかるかもしれません。
置き場所にも工夫を落ち着いて飲水できる場所に置いてみてください。複数個置いてあげるとアクセスしやすくていいかもしれません。
さいごに
慢性腎臓病は多くの猫がかかる身近な病気ですが、一度患うと生涯に渡って治療が必要となるため、ネコちゃん・ご家族に負担がかかってしまうことも多いです。
また、初期の頃は気づかれない程度の症状であることも多く、はっきりとした症状が出てくる頃には進行した状態であることも多いです。早期発見することで病気の進行を緩慢にすることができるため、定期的に健康診断を受けることや、少しおかしいかな?と思った時には早めにご相談していただくことをおすすめします。
参考文献
1)Lulich JD, et al. (1992) Feline renla failure: Questions, answers, questions. Compend Educ Plact Vet 14: 127-152