ノミといえばどんなイメージがありますか?
吸血するから危険、痒そう、といったことが浮かぶかもしれませんが、じつは吸血する以外にも色々なトラブルを引き起こします。今回はそんなノミについてお話しますね。
犬も猫もネコノミ?
ノミにはいくつか種類がありますが、私たちやワンちゃんネコちゃんに関わってくるノミはほとんど全てネコノミと呼ばれるノミです。ネコノミは体長が約1~3mm、褐色の色をしています。1)
ノミの見つけ方
ノミは体の表面に寄生するため肉眼でも見えるはずですが、犬猫が毛で覆われていること、ノミが動き回っていることを考えると、ノミの姿を確認することは、じつは結構難しいのです。
ノミの姿そのものを見つけられなくても、毛をかき分けると皮膚に黒い粉があったり、ワンちゃんネコちゃんの周りに黒い粉が落ちていることがあります。これを湿らせたコットンやティッシュに置き、軽くつぶすと赤茶色ににじむ場合、この黒い粉はノミの糞です。ノミの糞がワンちゃんネコちゃんに付いているということは、ノミに寄生されていることが分かりますね。
体表に寄生する大量のノミ
赤茶色ににじむノミの糞
ノミのライフサイクル
ノミは、卵→幼虫(2回脱皮)→蛹(さなぎ)→成虫 という順で成虫になりますが、吸血をして様々なトラブルを引き起こすのは成虫のノミです。成虫はノミ全体でみるとほんの1%だけで、約60%は卵として存在しています。1)
卵の大きさは0.5mmと小さく、私たちの肉眼では見えません。白くツルツルしており、雌の成虫は寄生した動物の上に産卵し、卵は地面に滑り落ちます。地面に落ちた卵は1~10日で孵化します。幼虫は成虫ノミの残屑や血液を含んだ糞を食べて成長します。幼虫は光を嫌い、地面に向かう方向に動く習性があるため、室内では幼虫は直射日光を避けて家具の下やカーペットの繊維の中へと移動します。屋外では茂み、木、葉の下の日陰部分に移動します。幼虫は5~11日かけて2回脱皮し、その間に体長約5mmに成長します。幼虫は熱や乾燥に非常に弱く、湿っているところを好みます。1)
成熟した幼虫は、蛹になるための粘着性の繭(まゆ)をつくります。この繭は抵抗性が強く殺虫剤からノミを守り、この中で幼虫は5~9日程度で蛹になり、羽化するタイミングを待ちます。この状態で長いと140日間過ごすことができると言われており、やがて羽化した成虫は寄生する動物を探します。
凄まじいジャンプ力で狙った動物に寄生したノミは、数分以内に吸血を開始し、その36~48時間後には1回目の産卵を行います。1日平均約30個の卵を産むと言われており、トータル2000個もの卵を産卵することがあります。成虫のノミは吸血と産卵をひたすら繰り返し、その寿命は約60日間です。1)
ノミのジャンプ力、知っていますか?
ノミのジャンプ力は体長の約60倍の距離、約100倍の高さと言われています。体長3㎜のノミだと20㎝くらいの距離、高さ30cmのジャンプができるんですね。ちなみにこれを160cmの人間で例えると、距離が約100m、高さ160mも飛べる計算になるのですよ!2)
ノミに寄生されるとどうなる?
子犬や子猫の場合は大量に吸血されると貧血になってしまうこともありますが、成犬・成猫の場合は貧血になることはまれです。それ以上に、ノミに寄生されると色々なトラブルが引き起こされてしまいます。
皮膚の痒み、ノミアレルギー性皮膚炎 犬猫がノミに咬まれた時に皮膚に傷ができ、痒みが生じます。ノミに対してアレルギーを持っていない場合はその咬まれた部位だけに皮膚のトラブルが起こりますが、ノミアレルギーを持っている犬猫の場合、咬まれた時に体内に入ってくるノミの唾液に対してアレルギー反応を示すため、広い範囲で痒みや皮膚のトラブルが起こってしまいます。
犬の場合、ノミアレルギーで一般的に見られる症状として、尻や尾の付け根、鼠径部(そけいぶ:内股の大腿部の付け根あたり)を噛んだり引っかいたりすることが多いです。急激な強い痒みを伴い、皮膚が赤くなり、炎症が外観上にも強く見られることがあります(ホットスポットと呼びます)。猫のノミアレルギーでも同じような皮膚炎ができますが、より多岐にわたった症状である事も多く、背中やお腹・首など広範囲でブツブツした赤い点状のかさぶたや隆起が見られます。
一度ノミアレルギーを発症してしまうと、今後ノミに寄生されるたびにノミアレルギー性皮膚炎を起こしてしまうことになります。
犬のノミアレルギー性皮膚炎
猫のノミアレルギー性皮膚炎
寄生虫や病気の媒介 ノミは他の寄生虫や病気を媒介することがあります。
グルーミングなどでノミを体内に取り込んでしまった場合に、ノミの体内にいる瓜実条虫が犬猫の体内に入ります。瓜実条虫は犬猫の消化管に寄生し、犬猫の糞便中にこの寄生虫の一部が見られたり(米粒のように見え、よく見ると動いています)、肛門周りに付着していたりします。犬よりも猫でよく見られ、少数寄生では無症状ですが、多数寄生になると下痢や食欲不振になることがあります。
実はこの瓜実条虫、人にも寄生することが知られています。乳幼児に感染すると腹痛や下痢が見られることがあるので、注意しましょう。
バルトネラ菌を持ったノミに吸血されることで犬や猫がバルトネラ菌に感染します。犬猫は感染しても無症状ですが、感染している犬猫に人が引っかかれると、その傷口から感染し、発熱やリンパ節の腫れが起こります。
ノミの駆除は大変!
犬猫にノミが寄生している場合、犬猫に寄生する成虫のノミと、周りの環境中に存在する卵・幼虫のノミを駆除しなければいけません。
環境中のノミに対してはカーペットや寝具を徹底的に洗濯し、その他ワンちゃんネコちゃんが居るエリアに掃除機をかけ、粘着性のあるクリーナーなどで掃除します。1回掃除をすると一部の幼虫が死滅しますが、残念ながら全てを排除することはできません。抵抗力のある卵が孵化したり、繭から成虫が出てくると、また繰り返し寄生が起こってしまいます。ですので、何度も入念な掃除を繰り返してノミを減らしていかなければいけません。
また、ワンちゃんネコちゃんに寄生しているノミに対しては駆虫薬を使用します。滴下するタイプや経口薬、おやつタイプのものなど様々な薬があります。ノミの成虫を駆虫する薬の他にも、薬を使っている犬猫の血を吸ったノミが産んだ卵は成虫になれない、という効果を持つ薬もあります。これを使うことで、もし周りの環境中の卵や幼虫が成虫になって犬猫に寄生しても、そこから増えることはできませんよね。その成虫を駆虫すれば良いわけです。
私たちが目に見えるノミは成虫だけで、しかも成虫はノミ全体の約1%しか占めていません。つまり、ノミ1匹を見つけるということは、実はすぐ近くに100匹の幼虫と卵がいるということです。ライフサイクルでも述べたように1匹のノミから何千という数の卵が産み落とされます。しかもノミは犬猫に寄生するだけでなく、卵や幼虫は家の中のカーペットや家具の下などに潜んでいるのです。考えると少しぞっとしてしまいませんか?
さいごに
大切なワンちゃんネコちゃんがノミに狙われてしまう前に、ノミがワンちゃんネコちゃんの周りで増えていかないようにしっかりと駆除・予防していくことが大切ですね。予防薬には色々な種類があるため、ぜひ一度相談にきてくださいね。
参考文献
1) Textbook of Veterinary Internal Medicine 第7版 p99
2)
Elanco ホームページ画像提供:犬と猫の皮膚科 村山 信雄先生、東京猫医療センター 服部 幸先生