ワンちゃんの代表的なホルモンの病気として「クッシング症候群」という病気は聞いたことありますか?(「副腎皮質機能亢進症」とも呼ばれます)。
人間ではとても珍しいため(10万人に1人未満)、なじみのない病気かもしれませんが、犬ではありふれた病気なので、とくに中高齢のワンちゃんと暮らすご家族には知っておいていただきたい病気です。
最初に現れる症状は、水を飲む量が増える、おしっこの量や回数が増える、そして食欲が旺盛になることですが、「中年を過ぎてからよく食べ、よく飲み、元気にしているな」と勘違いされることが少なくありません。そのうちにお腹まわりが太くなり、毛が薄くなり、歩くとハーハー疲れやすくなりますが、「老化だから仕方ない」と見過ごされがちです。
今回はそんな犬のクッシング症候群について解説します。
犬のクッシング症候群とは?
犬のクッシング症候群は200頭に1頭程度の割合で発生します。5歳以上で発病の可能性がありますが、10歳前後の犬が発病しやすいです。雄よりも雌がかかりやすいです。
クッシング症候群の別名は「副腎皮質機能亢進症」です。文字通り副腎にある、副腎皮質の機能が亢進する(働きすぎる)のがこの病気の原因です。

副腎はイラストのように、腎臓のすぐそばにあります。
副腎にある副腎皮質は、いろいろなホルモンを作って分泌する臓器です。このうち「糖質コルチコイド」と呼ばれる一連のホルモンは、ストレスから体を守るために無くてはならないものです。健康体では視床下部というところに存在する、脳下垂体が副腎皮質に対して指令を出し、必要なときに必要なだけ糖質コルチコイドが分泌されるようになっています。
クッシング症候群では、指令を出す脳下垂体または指令を受ける副腎皮質のどちらかに異常が起こり、糖質コルチコイドが出しっぱなしになることで、さまざまな症状が現れます。
原因
クッシング症候群の原因は大きく分けて2つあります。
脳下垂体の異常脳下垂体に腫瘍ができることで、副腎に向けて分泌されるホルモン(副腎皮質刺激ホルモン)が出しっぱなしになります。この間違った指令を受けた副腎皮質から糖質コルチコイドが出しっぱなしになります。犬のクッシング症候群では、このパターンが約80~85%を占めています1)。

副腎腫瘍副腎皮質に腫瘍ができることで、糖質コルチコイドが出しっぱなしになります。犬のクッシング症候群では約15~20%がこのパターンです1)。

こんな様子があればクッシング症候群かも?
犬がクッシング症候群になると、次のような変化が現れます。
多飲:1日に体重1kgあたり100 ml以上の水を飲む
多尿:1日に体重1kgあたり50ml以上の排尿をする2)

これらの症状は何となく加齢のせいかな?と思われがちな変化も多いですね。
例えば嘔吐や血尿のように、すぐに病院に連れていかないと!というような急性の症状ではないため、病気が進行してから見つかったり、健康診断や他の目的で来院したときにたまたま見つかることも多い病気です。
症状だけを見ると、そんなに恐ろしい病気じゃなさそうだし、治療しなくても様子見でいいのかしら?と思う方もいるかもしれませんが、進行するとやがて次のような症状・併発疾患がでてくることもあります。
下垂体の腫瘍の場合、腫瘍が脳の中で神経を圧迫すると認知症のような神経症状が起こることがあります。副腎腫瘍の場合、腫瘍が大きくなることで破裂して出血し、突然死に繋がる可能性があります。ほかにも糖尿病、高血圧、血栓症など、さまざまなリスクがあります。
このように、治療せずに病気が進行すると様々な症状がでてくるかもしれません。なるべく進行してしまう前に治療をスタートさせてあげたいですね。
診断
クッシング症候群を診断するためには身体検査や血液検査、画像検査(レントゲン検査、超音波検査)を行います。身体検査・一般的な血液検査によってクッシング症候群が疑わしい場合に血液中のホルモン濃度を詳しく測定していきます。
クッシング症候群であることが分かった場合、さらに原因が脳下垂体の異常なのか副腎皮質の腫瘍なのかを画像検査によって突き止めます。脳下垂体の異常である場合には、今後の治療の選択のためにも脳下垂体の大きさを調べるためにCT検査/MRI検査を行うこともあります。
治療
クッシング症候群は、原因によっていくつかの治療の選択肢があります。
脳下垂体の異常内科療法、外科療法、放射線療法の3パターンが治療法の選択肢としてあがってきます。脳下垂体のサイズなどによって、どの治療を行うかを決めていきます。
外科療法は脳下垂体を取り除きますが、手術の難易度が高く、無事に摘出できたとしても合併症のリスクがあります。また、そもそも脳下垂体からはさまざまなホルモンが分泌されるため、そのホルモンを生涯投薬する必要があるなど、問題点も多いです。
放射線療法は脳下垂体のサイズが大きくなっている場合に行われる治療法ですが、放射線治療を行うことができる施設は限られています。
内科療法は副腎皮質ホルモンが作られるのを抑える薬を服用します。これらの治療方法のうち、どれが最適なのかを相談しながら決めていきます。
副腎の腫瘍副腎腫瘍が原因となっている場合、腫瘍を外科手術で摘出します。ただし、腫瘍の場合大きな血管を巻き込んでいたり、他の臓器へ転移している可能性などのリスク、また手術自体も高度な技術が必要であるなど、課題が多いです。
外科手術以外の選択肢としては脳下垂体での異常と同様に、副腎皮質ホルモンが作られるのを抑える薬を服用することもあります。

さいごに
クッシング症候群は高齢のワンちゃんがかかりやすい病気のひとつですが、残念ながら予防する方法はありません。特にシニア期以降にかかりやすい疾患なので、定期的な健康診断をうけることをおすすめします。ちょっとした体調の変化も病気のサインかもしれません、気になることがあれば是非ご相談ください。
参考文献
1) Labelle P, Kyles AE, Farver TB, et al. Indicators of malignancy of canine adrenocortical tumors: histopathology and proliferation index. Vet Pathol. 2004;41:490–497. PMID: 15347821
2)Yvonne McGrotty., 2019. In Practice 41, 249-258.