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膀胱炎と間違えやすい? ワンちゃんの尿路上皮癌
ワンちゃんの膀胱や尿道、尿管、腎臓などの尿の通り道にできるがんの1つに“尿路上皮がん”と言われるがんがあります。

このがんの注意点として、症状が膀胱炎や尿石症などと似ているために発見が遅れてしまうことが挙げられます。

今回は、ワンちゃんの尿路上皮癌について、中でも多い膀胱と尿道に見つかるケースを想定して解説していきます!

そもそも尿路上皮癌とは?

尿路上皮とは、膀胱・尿道・尿管・腎盂などの内側を覆っている細胞のことで、移行上皮とも呼ばれます。

そのため、今までは移行上皮癌という診断名の方が一般的でしたが、尿道の前立腺部に発生するがんにおいて前立腺癌との線引きが難しいことなどから、近年では従来の移行上皮癌と前立腺癌をまとめて”尿路上皮癌”と呼ぶ流れにあります。

症状

尿に血が混じる(血尿)
何度もトイレに行くが尿量が少ない、またはほとんど出ていない
尿が出にくい、排尿時に痛そうにする、鳴く
元気や食欲が減ってきた
これらの症状は一般的な膀胱炎と共通することも多く、見分けがつきにくいことがあります。

そのため、抗生物質や消炎剤などで治療を行ない一時的に良くなったとしても、すぐに再発する場合にはがんが隠れていないか?詳しく調べていかなければなりません。

検査

尿検査
まずは一般的な尿検査で、細菌性膀胱炎や腎盂腎炎などの感染症、尿路結石やその他の泌尿器疾患の存在を確認します。尿の中にがんを疑う細胞が見つかることはあるものの、この検査のみで尿路上皮癌と診断することはできません。
腹部超音波(エコー)検査
このがんの発見にはエコー検査が有用です。膀胱、尿道、尿管、腎臓などに通常時には見られないできものが見つかった場合、尿路上皮癌が疑われます。

その際には、周囲のリンパ節などが腫れていないかどうかエコーで確認します。しかし、エコー画像では尿路上皮癌以外のがんや良性病変などと明確に鑑別することが難しいため、後述する検査にてがん細胞を評価する必要があります。
レントゲン検査
レントゲン検査は主に転移の有無を確認するために実施します。特に肺や骨への転移が問題となりますが、レントゲンでは病変がある程度の大きさにならないと見つかりません。
CT検査
レントゲンと比較してより詳細な転移の確認できるのがCT検査の強みです。また、CT検査を受けることでがんの全体像が把握しやすく、手術を検討する際にも有用となります。
カテーテル吸引法
がんがどのような細胞で構成されているかを調べる検査が細胞診です。通常はがん自体に針を刺して細胞を採ってきます。しかし、膀胱などにできる尿路上皮癌は、体表から膀胱を刺した際に腹壁等に移ってしまうこと(=播種と呼びます)があります1)。

そこで尿道からカテーテルを通し、先端を病変に当てながら吸引して検体を回収します。この手法は、膀胱・尿道にがんを疑う病変が見つかった際に実施されることが多い方法です。
BRAF遺伝子検査
犬の尿路上皮癌の70〜90%において変異が認められるとされるBRAF遺伝子の検査が推奨されます2)。サンプルとしては、先述したカテーテル吸引検査の際に得た組織片や尿などで検査することができます。

以上のような検査を組み合わせることで、膀胱や尿道における尿路上皮癌の診断が可能となります。

治療

このがんは周囲の組織に広がりやすいなどの理由から、手術が選択されるケースは比較的少なく、内科治療が選択される傾向にあります。内科治療としては主に以下のような選択肢があります。
消炎鎮痛薬(NSAIDs)
がんの進行を遅らせる効果を期待して使用されます。腎機能が低下した症例や胃腸が弱いワンちゃんでは副作用が強く出ることがあり、注意が必要です。
抗がん剤治療(化学療法)
がん細胞を壊すことでがんを小さくしていく治療法です。治療効果を高めるために、NSAIDsと組み合わせて使用することもあります。抗がん剤による副作用に関しては、「ご家族に知ってもらいたい抗がん剤の話」という記事も合わせてお読み下さい。
分子標的治療薬
がん細胞の増殖や転移に関わっている分子に直接働きかける内科治療です。ワンちゃんの肥満細胞腫をはじめとしてさまざまながんの治療に使用されるトセラニブは、残念ながら尿路上皮癌に対してはあまり有効ではありません3)。

しかし近年、人の乳癌治療に用いられるラパチニブという薬が、ワンちゃんの尿路上皮癌の治療にも有効であったという報告があり、大いに期待されています4)。
その他
これらの内科治療のほかに、外科手術があります。選択されるケースとして、がんの転移が認められず膀胱の先端側などに留まっている場合の切除手術や、がんが尿路を塞いでしまっている場合の緊急手術などが含まれます。

おわりに

ワンちゃんの膀胱や尿道にできる尿路上皮癌は、完治が難しいがんの一つです。膀胱炎などに症状が似ていることもあり、がんの発見が遅れるケースも少なくありません。

普段からご家族の方がワンちゃんのおしっこの様子をよく観察していただくことが早期発見につながりますので、気になることがありましたら、いつでも私たちにご相談ください。
参考文献
1)Higuchi T., Burcham GN., Childress MO., et al. Characterization and treatment of transitional cell carcinoma of the abdominal wall in dogs: 24 cases (1985-2010). J Am Vet Med. ; 242: 499-506. 2013.
2)Mochizuki H., Kennedy K., Shapiro SG., et al. BRAF Mutations in Canine Cancers. PLoS One. ; 10: e0129534. 2015.
3)Gustafson TL., Biller B. Use of Toceranib Phosphate in the Treatment of Canine Bladder Tumors: 37 Cases. J Am Anim Hosp Assoc. ; 55(5): 243-48. 2019.
4)Maeda S., Sakai K., Kaji K., et al. Lapatinib as first-line treatment for muscle-invasive urothelial carcinome in dogs. Sci Rep. ; 12: 4. 2022.