“胃拡張・胃捻転症候群”
難しい名前ですが、聞いたことはありますか?よく遭遇する病気ではないものの、じつはこの病気、命を落とす可能性がある恐ろしい病気です。
今回は是非知っててもらいたい病気のひとつ、胃拡張・胃捻転症候群についてのお話です!

胃拡張・胃捻転症候群とは?
ざっくりどんな病気かと説明すると、何らかの原因で胃が大きく膨らむ(胃拡張)、胃が捻じれてしまう(胃捻転)病気です。
これが起こるリスク要因は、好発犬種(大型犬)、ご飯の一気食い、食後の激しい運動、1日1回の食事、高さをつけた給餌、親にこの既往歴がある、加齢などと言われています。
大型犬の中でも、グレート・デン、ジャーマンシェパード、アイリッシュセッター、セントバーナード、スタンダードプードルなどの胸が深い犬に起こりやすいと言われていますが、ミニチュアダックスフンドなどの小型犬や、めったにないですが猫でも起こることがあります。
人でも、急いでご飯を食べると胃が苦しくなってしまったな…と感じること、ありませんか?
人の場合は少し休んだり、次の食事の量や時間を調整したりを自分でできますが、動物の場合なかなかそうはできませんよね。
性格によって胃拡張・胃捻転になりやすい子がいる…?!
ある研究によると、幸福度が高ければ高い犬ほど、胃拡張胃捻転の発生率が低下したそうです。
また、臆病な犬の方が胃拡張胃捻転になりやすいことも分かりました。この理由として、不安感などの負のストレスが加わることによって、胃腸の機能や動きに影響がでてくるのではないかと考えられています。1)
胃拡張・胃捻転が起こると?
“胃が膨らみ、捻じれることで、体の中で何が起きるのでしょうか?”
異常に拡張し、胃がお腹の中で捻れることによって胃への血流が途絶えるので、徐々に胃が壊死します。捻じれていると胃の中のガスが出ていかないので、内容物の消化や発酵に伴いガスが発生し、さらに急激に膨らんでいきます。
胃が捻じれるときに脾臓も一緒に巻き込むことがあり、そうなると脾臓も壊死する危険性があります。また、膨らんだ胃によって周りの血管が圧迫されることで、全身の血液の循環が妨げられ、低血圧や不整脈、ショックを引き起こし、全身状態がどんどん悪くなってしまうのです。
この病気は数時間で一気に病状が悪化し、なんと約20~45%2)が命を落としてしまうとも言われています。早く治療を開始できるほど救命できる可能性は高くなるため、ご家族にはなるべく早く異変に気付いてほしいです。

こんな症状が見られたら注意!
次のような症状がある場合、もしかしたら胃拡張・胃捻転が起きているかもしれません。
特に大型犬などの好発犬種で「吐くそぶりをするが吐けない」という症状は胃拡張・捻転症候群の特徴的な症状である可能性が高いです!気づいたら、早急に動物病院へ連れてきてください‼
気持ち悪そうに落ち着きなく歩き回る(腹痛)
よだれが多い
吐くそぶりをするが吐けない
お腹がいつもよりも異常に膨らんでいる
やがてぐったりしはじめる
可視粘膜色の変化(歯茎の色が蒼白)診断・治療
症状やレントゲン、血液検査によって診断しますが、一刻を争う状況ですので、検査を行いつつできる治療を開始することもあります。
まずは点滴や胃の中のガス抜きによって状態を改善させ、胃の捻転を整復する手術をします。壊死している部分は取り除く必要があり、胃の捻じれを戻し、再び捻じれてしまわないように胃をお腹の中で固定させます。
予防
大型犬と暮らすご家族は、普段の生活から以下のことに気をつけてもらうと少しでも発症しづらくできるでしょう。
食後の運動は避ける(約2時間程度)
1日1食ではなく、何回かに分けて食事を与える
胃拡張・胃捻転になったことがあるワンちゃんとの繁殖は避ける
好発犬種の場合は、避妊手術のときに胃をお腹の中で固定させて、胃捻転が起きるのを予防しておく方法もある
さいごに
この病気はいかに早く気付いて早く治療を開始できるかにかかっています。
とくに好発犬種のワンちゃんと暮らしているご家族は、この胃拡張・胃捻転症候群を頭の片隅に置いておいてくださいね。
参考文献
1)Lawrence T. Glickman et al., 2000. Journal of the American Veterinary Medical Association 216(1): 40-45
2)Katy M Evans.,Vicki J Adams., 2010. J Small Anim Pract 51(7):376-81