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ワンちゃんネコちゃんが口にすると危険なものとは?(食べ物編)
人と犬猫は身体の仕組みが似ている部分が多いですが、違った部分も持つ生き物です。普段私たちが食べている物や身近なものでも、犬猫にとっては有害なものもあります。私たちの身近にある、よく知られているようなものから意外なものまで…知っているだけで中毒を未然に防ぐことができる場合もきっと多いはずです。

今回はワンちゃんネコちゃんが口にすると危険なものについて前編(食べ物)と後編(食べ物以外)に分けてお話しします。前編は食べ物で危険なものです 。

タマネギやネギ類

ワンちゃんネコちゃんと一緒に暮らしている方であれば聞いたことがある人も多いかもしれません。タマネギやネギ類に含まれる有機チオ硫酸化合物という物質が血液中のヘモグロビンを酸化し、赤血球を破壊(溶血)して、その結果貧血を起こしてしまいます。この有機チオ硫酸化合物は加熱や乾燥などの加工をしても成分は変わらないため、タマネギを使った加工食品にも注意が必要です

症状
食べてから半日~数日経過してから症状が現れることが一般的であり、症状には次のようなものがあります。
元気消失、食欲低下
嘔吐、下痢などの消化器症状
口の粘膜や舌が白っぽい(可視粘膜の蒼白)
赤っぽい色の尿(ヘモグロビン尿)
頻脈、呼吸が早くなる
中毒量
一般的には体重の0.5%以上の量を食べてしまうと中毒症状が出てくると言われています。ただ、体重1kgあたり犬では15~30g、タマネギに対して感受性の高い猫では5gの量を食べただけでも血液検査上での異常が認められるので、少量でも注意が必要です。1)

玉ねぎの大きさごとの目安となる重さ[g]は、大:300g、中:200g、小:100gくらいになります。

また柴犬や秋田犬といった、ある特定の犬種は遺伝的に少し特徴的な赤血球を持ちます。その赤血球は他の犬種が持つ赤血球と比べて酸化を受けやすい、つまり破壊されやすいため、柴犬や秋田犬はタマネギによって貧血が起こりやすい(感受性が高い)と言われています。2)

チョコレート

チョコレートの主原料であるカカオ豆に含まれる、テオブロミンやカフェインなどのメチルキサンチンという物質により中毒症状が起こります 。

人ではテオブロミンは肝臓で分解されます。犬でも同じように肝臓で分解されるのですが、その分解する速度が遅く体内にテオブロミンが長く残るため、テオブロミンの薬理作用が強く出て中毒症状が現れてしまいます。

症状
症状が出てくるのは食べてから2~4時間3) ほど経ってからです。まず初めに嘔吐や下痢、失禁がおこり、続いて興奮、さらに重症の場合は頻脈、心臓の心拍リズムの異常、痙攣(けいれん)などが見られ、最悪の場合は亡くなる可能性もあります。食べてから症状が出てくる2~4時間以内に効果的な治療(吐かせる処置など)ができれば、多くの場合治療がうまくいくと言われています。4)

中毒量
一概にチョコレートといっても種類はたくさんありますよね。スイート系と比べてビター系のチョコレートの方がカカオ豆の含有量が多く、カカオ豆に含まれるテオブロミンの量も多くなるので中毒が起こりやすくなるので要注意です。テオブロミンとカフェインを体重1㎏あたり20㎎食べると犬で軽度の中毒症状がみられ、40~50mg食べると症状が重くなり、さらに60mgでけいれんが起こると言われています。5)

猫でもチョコレート中毒はある?
なんとなくチョコレート中毒は犬のイメージがあるかもしれませんが、猫でも中毒は起こりえます。ただ猫の場合、甘味を感じる味覚を持っていないため、そもそもチョコレートの誤食をするケースが少なく、犬に比べると一般的ではないのかもしれません。

ナッツ(マカダミアナッツ)

食用ピーナッツの中で中毒症状を引き起こすのはマカダミアナッツです。犬では中毒報告があるものの死亡例はなく、猫では今のところ中毒の報告はありません。

症状
中毒を引き起こす原因物質は分かっていませんが、食べてから12時間以内嘔吐、衰弱(特に後ろ足)、ふらつき、発熱、震えなどが見られます。これらの症状は2日以内に消失すると言われており、熱を下げる・痛み止めの薬や点滴などの支持療法で回復します。

中毒量
体重1kgあたり0.7gという少量のマカダミアナッツを摂取して中毒症状が現れたという報告があるため、少量でも注意が必要です。6)

ぶどう、レーズン

ぶどう中毒はぶどうやレーズンを食べてしまった時に起こりますが、ぶどうが犬にとって有害であると分かったのは意外と最近です。2001年のアメリカでの報告でぶどうが犬にとって危険な食べ物であると分かりましたが、未だに原因物質は特定できていません。7)

症状
ぶどうを食べると数時間後元気消失、嘔吐がみられ、急性腎不全が引き起こされます。血液検査をすると腎臓や肝臓に関連する数値が上がり、尿が作られない(乏尿・無尿と言います)の状態に陥り、最悪の場合は亡くなることもあります 。

摂取した犬は最低でも48~72時間は入院による点滴治療を行う必要があり、72時間は腎臓が正常に機能するかチェックしなければいけません。8)9)

中毒量
原因物質がまだ分かっていないせいか、どれだけの量のぶどうを食べると中毒が引き起こされるのかは正確には分かっていません。また、食べた量が少ないから軽症、量が多いから死亡するリスクが高いというわけではなく、個体差があるようです。ただ、体重1kgあたりぶどう19.6g、レーズン2.8gというわずかな量を食べて死亡したという報告があるため、少量であっても犬にとっては非常に危険な食べ物です10)

アボカド

アボカドに含まれるペルシンという成分が危険であり、犬猫だけでなくうさぎ、ハムスター、鳥、牛、馬、ヤギなどに対しても毒性を持つ事が分かっています。11)

症状
ペルシンが引き起こす症状は動物種によって色々であり、嘔吐や下痢、胃腸炎、呼吸困難、心臓の周りの液体貯留(心嚢水や胸水)、死亡などが挙げられます。特に鳥は感受性が高く、摂取してから1日以内に亡くなる可能性があります。犬がアボカドを食べたことで亡くなったという正確な報告はありませんが、他の動物種のアボカド中毒とよく似た症状で死亡した犬は報告されています。11)12)

また、アボカドに含まれる脂肪の量が多く、それによって犬が膵炎となってしまう可能性もあると言われています。11)また、アボカドの中心には大きな種があり、これを食べてしまうと喉やお腹の中で詰まってしまうかもしれません。

中毒量
どの程度食べると中毒が起こったり死亡するリスクがあるのかはっきりとは分かっていませんが、中毒以外にも膵炎や詰まってしまう、などの危険性が考えられるので、アボカドは与えないようにしましょう。

キシリトール

キシリトールは人工甘味料であり、ガムや歯磨き粉、キャンディーなど、私たちが口にする多くの物に含まれています。

症状
犬がキシリトールを食べると、早ければ30分程度でインスリンという血糖値を下げる働きを持つホルモンが体内から急激に分泌され、血糖値が急激に下がります。低血糖になることでふらつき、ぐったりして呼びかけに反応しない、発作などが起こります。また、肝臓に影響を与えて肝臓の機能障害や肝不全を引き起こす可能性があります。

中毒量
犬ではキシリトールによる低血糖は体重1kgあたり0.03g13)から、肝不全は0.5g14)から認められると言われていますが、摂取したキシリトールの推定量と低血糖症状は無症状だったという報告もあります。14)

さいごに

ここまでが口にすると危険なもの、食べ物編です。どれだけの量なら食べても大丈夫、というはっきりした線引きはなく、その子その子によって症状の有無や重症度は違ってきます。もしこれらの物を食べてしまったのであれば、これくらいなら大丈夫だろう、と自分で判断せずにまずは病院を受診することをおすすめします。

時間が経っていなければ吐かせる処置を行い、体に吸収されるのを防ぐことができる場合もあります。
参考文献
1)Cope RB, 2005. Vet Med 100: 562–6
2)O Yamato., Y Maede., 1992. Am J Vet Res 53(1): 134-7
3)Dolder LK., 2013. Small Animal Toxicology : 647-52
4)Sturgeon K., Sutton NM., 2008. Clinical Toxicology 46(5): 384-3845)
5)Gwaltney-Brant S., 2001. Vet Med 96(2): 108-11
6)McKenzie RA et al., 2000. Aust Vet Pract 30(1): 6-10
7)Gwaltney-Brant S. et al., 2001. J Am Vet Med Assoc 218: 1555-1556
8)N M Sutton et al., 2009. Vet Rec 164(14): 430-1
9)Mostrom MS., 2013. Small Animal Toxicology
10)Eubig PA. et al., 2005. J Vet Intern Med 19(5): 663-674
11)Natália Kovalkovičová et al., 2009. Interdiscip Toxicol 2(3)
12)Buoro IB. et al., 1994. Onderstepoort J Vet Res 61(1): 107-9
13)DuHadway MR et al., 2015. J Vet Emerg Crit Care 25: 646-54
14)Dunayer EK., 2006. Vet Med 12: 791-7