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大きなお便り、下痢について フォトコンTOP20:田中こくちゃん
下痢は体調不良の症状として最もよくみられる症状のひとつであり、ご家族も便の変化に気づきやすいため、病院への来院理由としてとても多いです。ワンちゃんネコちゃんが下痢したとき、すぐに病院に連れていくかどうか悩んだことがある方もいるのではないでしょうか。

今回はそんな下痢についてのお話です。

下痢とは?

下痢とは、糞便中の水分が多い状態のことです。軟便も下痢に含まれます。動物にとって水の存在は必要不可欠であり、体内では日々、多量の水分が移動しています。

人では1日に約2リットルの水分を口から摂取します。また、身体の中で消化管に分泌される液体の1日量は合計約9リットル(唾液1リットル、胃液2リットル、胆汁(肝臓で作られる液体で脂肪の消化をサポートする)0.4リットル、膵液(膵臓で分泌される消化液)1リットル、腸液(小腸で分泌される消化液)2.6リットル)と言われています。1日に約11リットルの水分が消化管に入ってくる一方で、便として排泄される水分はたったの約0.2リットルです。つまり消化管に分泌される液体のほとんどが腸の粘膜から体内に吸収されている、ということです。1)
一般に犬と猫は体格が人よりも小さいため、人より水分量は少なくなりますが、多量の水分が移動しているのは変わりありません。そのため、腸での水分の吸収が悪くなったり、腸の動きが速くなりすぎると、便として排泄される水分量が増えて下痢につながってしまうということですね。
糞便スコア
スコア4-5が正常な便の硬さ、スコア6が硬すぎる便、スコア1-3が数字が下がるにつれて便の水分量が多くなっています。

下痢の種類

下痢にはいくつかの種類があります。
急性?それとも慢性?
急性下痢とは急に生じる下痢で、一般に1-2週間以内に治癒するものです。下痢の原因は明らかにできないことも多く、いつもと違う食事を食べたこと、食事以外のもの(拾い食い、異物、毒物、薬物など)の摂取、ストレス、細菌感染、ウィルス感染などが原因に挙げられます。下痢の水分量が多くなく、元気や食欲が十分にあり、嘔吐や発熱がなければ、無治療や対症療法(脱水に対する輸液、整腸剤など)で経過をみることが多いです。

急性下痢の場合、元気や食欲がない、6ヵ月齢未満や高齢、嘔吐がある、下痢に血が混ざるなどのうち1つでも当てはまれば、重症の可能性がありますので、動物病院を受診し、治療や検査を受けることをお勧めします。

慢性下痢とは2-3週間以上続く下痢のことです(下痢が出たり出なかったりも含めます)。慢性下痢は何かしらの持続する病気(慢性疾患)が潜んでいることがほとんどであるため、治療をしなければ下痢は続き、少しずつ悪化していくことが多いです。できるだけ早期に動物病院を受診することをお勧めします

慢性下痢の原因はかなり多く、多様であるため、いろいろな検査によって原因を突き止めて、それに応じた治療が必要となります。対症療法や食事療法が効かない、高齢、体重減少がある、元気や食欲が低下、嘔吐がある、下痢に血が混ざるなどのうち1つでも当てはまれば、重症の可能性があります。
小腸性?大腸性?
小腸は、胃の中である程度分解された食べ物が運ばれてくるところで、消化と吸収の主体となる臓器です。小腸の最初の部分を十二指腸と言い、ここで消化液(膵液、胆汁)によって食べ物の栄養素がさらに消化されます。その後の小腸は、壁がヒダ状になっており(じゅうたんのようになっているので絨毛と呼ばれる)、そこから消化した栄養を吸収します。

大腸には、小腸で栄養を吸収した後の食べ物の不要な部分が流れてきます。大腸では残った水分を体の中に吸収し、食べ物の不要な部分から糞便を作り、排泄します。

下痢の様子(排便回数や下痢の性状)によって、小腸に問題があって起こる小腸性下痢と、大腸の問題があって起こる大腸性下痢に分けられます。これは下痢の様子から小腸と大腸のどちらに病気があるのかを大まかに予想する重要な分類ですが、注意点として小腸と大腸以外の病気でも小腸下痢と大腸性下痢をおこすことがあること、小腸と大腸が両方とも病気になると判断が難しくなることがあります。
下痢の種類内容
小腸性下痢排便回数は増えず、1日1-2回ほどです。しかし1回の下痢の量は多くなります。小腸は栄養素を吸収するところなので、小腸性下痢が長い期間続くと体重が減ることが多いです。また、小腸で出血している場合には、血液が小腸で消化されて黒くなるため、糞便自体も黒色になります。
大腸性下痢排便回数が増え、1回の量は少なくなります。何度も排便する姿勢をとることがあります。体重減少は多くありません。また、粘液(どろどろしたセリー状のもの)や鮮血(赤い血)が下痢に混ざることが多いです。

下痢の原因

下痢が起こる原因は様々です。小腸や大腸などの消化管に問題があって下痢がおこる場合(原発性)と、他の臓器やホルモンなどの病気によって下痢がおこる場合(続発性)があります。急性下痢の場合には原因特定は難しいのですが、糞便検査、血液検査、X線検査、超音波検査などを行うことがあります。慢性下痢の場合には上記の検査に加えて、内視鏡検査、ホルモン検査などを行うことがあります。以下は下痢の原因となる項目です。

食事
食事の変更、何でも食べさせること、過食、食中毒、不耐性など、食事に関連する下痢は非常に多いと考えられています。すぐに治る急性の下痢は、これらが原因である可能性があります。無治療でも治癒することも多いですが、整腸剤などの内服で下痢が治るまでの期間を短縮できる可能性があります。元気や食欲がない、6ヵ月齢未満や高齢、嘔吐がある、下痢に血が混ざるなどがみられる場合には重症化する可能性があり、点滴など治療を検討してもよいです。食物アレルギーの場合には、投薬や療法食などの治療が必要となります。
ストレス
強いストレスは消化管の運動性を変化させると考えらており、下痢の原因となります。
異物
食べ物ではないものを口にした、拾い食い、毒物や薬物を食べたなどといった場合にも下痢が起こることがあります。何か食べてしまった可能性がある場合は、早めに受診することをおすすめします。
感染症
ウイルス、細菌、寄生虫など、下痢をおこす感染症は多数あります。ウィルス性下痢や細菌性下痢の多くは急性下痢であり対症療法で治癒しますが、まれに犬のバルボウィルス症や猫伝染性腹膜炎など命に関わる下痢もあります。寄生虫性下痢は急性下痢と慢性下痢とがあり、主に糞便検査により診断します。1回の糞便検査では診断できないこともあり、疑わしい場合は複数回検査することもあります。また、感染症の原因特定のための検査(PCR検査と呼ばれる遺伝子の検査)も行うことがあり、院外の検査機関に依頼します。
炎症
腸炎の原因も様々ですが、慢性腸症と言われる原因不明の慢性胃腸炎が犬と猫で増えています。慢性下痢が治らず、各種の検査で診断がつかない場合には、慢性腸症の可能性があるかもしれません。慢性腸症は診断が難しいことがあり、診断には胃腸の生検(組織を一部採取すること)と病理検査などが必要です。治療は、食事療法、ステロイド剤などを中心に行います。
がん
特に高齢動物の慢性下痢は、がんの可能性も考えます。胃腸のリンパ腫、腺癌など、がんによって下痢が起きることがあります。血液検査や画像検査を行い、最終的には生検(組織を一部採取すること)と病理検査などから診断する必要があります。
消化管以外の原因
膵臓の疾患(膵炎、膵外分泌不全)、肝臓や胆嚢の疾患、子宮蓄膿症(子宮に膿がたまる)、内分泌疾患(ホルモンの病気)、敗血症など、消化管以外の病気も下痢につながることはたくさんあります。
これらは下痢以外の症状が見られることも多く、血液検査やレントゲン検査、超音波検査など必要に応じて行い、総合的に判断します。
犬種的な素因
ヨークシャーテリアの蛋白漏出性腸症、ミニチュアダックスフンドの炎症性大腸ポリープ、柴犬の慢性腸症とリンパ腫、パグのリンパ腫など、犬種と関連した腸の病気もあります。これらの原因遺伝子は特定されていませんが、遺伝子異常などが疑われています。

さいごに

一言で“下痢”といっても、整腸剤や点滴などの治療で時間とともに治癒するもの、慢性化するもの、命にかかわってくるようなものまで、実に様々であることが分かっていただけたかと思います。

ひどい急性下痢の場合、点滴や整腸剤などの治療で下痢を数日間でも早く直してあげることは、動物とご家族の生活の質が向上すると思います。また、そこまでひどくない軟便ぐらいであっても、2週間以上続いている、昔から下痢することが多いけれど体質かしら、と悩まれている場合は、一度病院へと相談にいらしてください。

原因を探り治療することで下痢がおさまれば、ご家族の心配が減り、安心して過ごすことができるかもしれません。もしも、下痢以外に食欲低下や体重減少が続く場合には、重症の病気が’隠れている可能性が高いため、できるだけ早く検査と治療を行うことをお勧めします。
参考文献
1) 志水泰武, 2012. CAP 2月号: 16-21
2) Textbook of Veterinary Internal Medicine 第7版 p201
3) Canine & Feline Gastroenterology, 2013