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妊娠中に猫と暮らすのは危険??
妊娠中は猫と生活してはいけない…こんな話を聞いたことはありませんか?

この話、実はトキソプラズマという原虫が原因で言われている話です。
なぜ妊婦さんと猫が一緒に暮らしてはいけないと言われるのか、今回はその理由を掘り下げていきます!!

トキソプラズマ?

トキソプラズマとは何か知っていますか?
顕微鏡でしか見ることができないほど小さい、“原虫”とよばれる寄生虫です。写真の緑に光って見えるのが、トキソプラズマ原虫を顕微鏡で見たものです。1)

トキソプラズマは人や犬猫、家畜などの全ての恒温動物が感染します。

どの動物にも感染するのに、なぜ “トキソプラズマは猫で注意!!” というイメージがあるのでしょうか。


それは、猫に感染した時だけ、他の動物に感染させるものを、環境中に出すようになるからです‼
不思議ですよね。
少し詳しくお話すると、トキソプラズマが猫に感染するとオーシスト(虫卵のようなもの)が猫の糞便と一緒に排泄されます。このオーシストが、何らかの方法で動物の口の中に入ると感染します。

ちなみに、猫以外の動物がトキソプラズマに感染した場合はどうなるのでしょう?
トキソプラズマは感染した動物の筋肉などの中にシストと呼ばれる嚢胞を作ってじっと潜み、その動物の糞便中には出てきません。

トキソプラズマに感染するタイミング

人や動物がトキソプラズマに感染するタイミングを考えてみましょう。
猫が糞便中に排泄したオーシストを何らかの経路で口にしたとき(水や土壌などの環境中に溶け込んでいることもある)
シストが潜んでいる肉(牛肉や豚肉など)を食べたとき
公園の砂場は危険⁉
公園の砂場は危険‼と聞いたことはありませんか?
その理由の一つがこのトキソプラズマです‼
トキソプラズマに感染した猫が糞便中にオーシストを排泄しますが、このオーシストが公園に潜んでいることがあるために、このように言われています。公園だけでなく、猫が排泄しているような場所を触った場合には、しっかりと手洗いしてくださいね。

猫がトキソプラズマに感染したら

健康な大人の猫がトキソプラズマに感染しても何も症状がなかったり、あっても一時的な軽い症状だけで慢性感染に移行することが多いです。

症状がみられるのは主に仔猫や免疫力が低下している猫で、下痢や嘔吐、食欲低下、発熱、神経症状、ブドウ膜炎や白内障といった眼の症状、呼吸器症状などがみられます。犬でもほとんどの場合症状は見られず、症状がみられたとしても食欲低下や消化器症状などであり、トキソプラズマに特異的な症状ではありません。

診断

一番確実な診断方法は、猫の体内からトキソプラズマの虫体を検出することですが、じつはこれはなかなか難しいです。また、糞便中のオーシストを顕微鏡で見つける方法もありますが、このオーシストは他の寄生虫と非常に似ており、区別するのが困難です。より確実なのは糞便中のトキソプラズマ遺伝子をPCR法によって調べる方法です。

また、感染が考えられる場合は、血清抗体価と呼ばれる血液検査を行うこともできます。
ただこの検査の解釈は少し難しく、抗体価が陽性の場合は、過去から現在までのどこかのタイミングでトキソプラズマに感染したことがある、という事は分かるのですが、今現在みられる症状がトキソプラズマ感染によるものである、という証拠にはなりません。

また、この抗体価は感染してから上昇するのに時間を要するため、感染初期に血液検査をしても陰性の結果となる可能性があり、再度検査を行うこともあります。
さらに、生後間もない仔猫の場合は、感染していなくても母猫からの移行抗体により抗体価が高くなっていることもありますよ。

治療

トキソプラズマに感染しても症状が出ずに不顕性感染となっていることがほとんどです。治療には抗生剤を使いますが、症状が重篤であり肺や肝臓が障害を受けている、免疫不全状態である場合は予後が悪いことが多いです。2)

また、治療しても猫の体から完全にトキソプラズマを取り除くことは難しく、一度治療をして良化しても、何かのきっかけで再発することもあります。

人が感染しないためにできること

感染するタイミングは先ほどお話しましたね。これは人でも動物でも同じですよ。

猫の糞便中のオーシストを飲み込まないために…
オーシストは土壌や水に含まれていることがあるため、手洗いをして経口感染しないようにする、果物や生野菜はしっかり洗ってから食べることが大切です。また、生肉を切った包丁やまな板で、生野菜などを切って食べると感染する可能性があるため、注意が必要です。

また、猫の糞便中に排泄されるオーシストは、排泄直後には感染力がなく、数日間かけて感染力を持つようになるため、24時間以内に糞便を処理しましょう!2)また、トイレは定期的に熱湯で消毒すると良いでしょう。さらに、もしネコちゃんがトキソプラズマに感染しても、猫の糞便中にオーシストが排泄されるのは感染してから3日~10日間だけ2)と言われており、その後はオーシストが糞便中に出てくることはありませんよ。

家畜の肉に含まれるシストを口にしないために…
生肉は冷凍・加熱処理をしっかりしてから食べるようにします肉の中心部が-12℃になるまでの冷凍3)、もしくは中心部が67℃になるまでの加熱4)が必要と言われていますよ。ネコちゃんには生肉や部分加熱の肉は与えず、ネズミや虫を捕食させないことも感染予防に繋がります。たまにスーパーで買ってきた豚肉を、冷蔵庫にしまう前に、生のまま盗み食いしてしまうネコちゃんもいるので、要注意ですね。

妊婦とトキソプラズマの関係

人にも感染のリスクがあるトキソプラズマですが、なぜ妊婦と猫の話が絡んでくるのでしょう?

それは妊娠中の女性がトキソプラズマに初めて感染した場合、胎盤を通過して胎児に影響を及ぼす可能性があるからです
先天性トキソプラズマ症。これにより流死産や産まれてくる赤ちゃんに障害が認められることがあります。人のトキソプラズマ症に関しては、詳しくは 国立感染症研究所HP1)を参照してください。

健常な人が感染してもほとんどの場合は無症状ですが、このように妊娠中に初めてトキソプラズマに感染すると胎児に影響が出る危険性があるため、妊婦と猫との接触を指摘されているのです。
ただし、感染した猫の糞便中にオーシストが排泄されるのは限られた期間であることや、猫がトキソプラズマに感染しないように予防する糞便の処理は可能であれば妊婦以外の人が行う、などの対応をすれば妊娠中に猫と一緒に暮らしてはいけないわけではありませんよ。もし妊娠中で心配な場合は、ネコちゃんの血液検査を行うことでトキソプラズマの抗体価を調べることもできますよ。(抗体価を調べることで、感染の有無がある程度分かります)

さいごに

トキソプラズマは猫では重篤になることは稀であり、動物の感染症というよりも人、特に妊娠中の女性に対する公衆衛生として注意が必要な寄生虫です。

ただ、妊娠中だからといって必ずしもネコちゃんと生活することが危険なわけではないことがお分かりいただけましたか?
病気のことを理解して正しい知識をもち、対処できるといいですね‼
注釈を入力してください
1)国立感染症HP https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/3009-toxoplasma-intro.html#r
2)Katrin Hartmann et al., 2013. Journal of Feline Medicine and Surgery 15(7)
3)A W Kotula et al., 1991. J Food Prot 54(9):687-690
4) J P Dubey et al., 1990. J Parasitol 76(2):201-204