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僧帽弁閉鎖不全症と言われたときに

わんちゃんで最も一般的な心疾患【僧帽弁閉鎖不全症】

動物病院に行くとほぼ必ず

体重 体温 聴診 身体検査

をされると思うのですが、聴診で何をチェックしているかご存知でしょうか?


状況にもよりますが、

基本的に「心雑音がないか」「不整脈がないか」などをチェックしております。


そして心雑音が聴取されると、ほぼ必ず獣医師から言われるのが

「僧帽弁閉鎖不全症かもしれません」

という言葉です。


それはなぜでしょうか?

僧帽弁閉鎖不全症の発生率など

アメリカの獣医内科学会による診療指針によると

▶ 発生率

一次診療において、犬の約 10%が心疾患を有する。

- MMVD(粘液腫様僧帽弁疾患≒僧帽弁閉鎖不全症) は最も一般的な心疾患であり、北米では心疾患の 75%を占める。

動物病院に行くとほぼ必ず
体重 体温 聴診 身体検査
をされると思うのですが、聴診で何をチェックしているかご存知でしょうか?

状況にもよりますが、
基本的に「心雑音がないか」「不整脈がないか」などをチェックしております。

そして心雑音が聴取されると、ほぼ必ず獣医師から言われるのが
「僧帽弁閉鎖不全症かもしれません」
という言葉です。

それはなぜでしょうか?

▶ 病態

- MMVD は最も一般的には左房室あるいは僧帽弁に影響を与える(30%程度において三尖弁にも影響)
-
オスはメスより 1.5 倍多い。
- < 20kg
において有病率が高い。
-
時々大型犬にも発生し、心筋機能障害を伴うより速い進行を認めるために予後には注意が必要である。
-
小型犬において一般的に進行はゆっくりであるが、予測はできない。
-
ほとんどの犬が心不全徴候発現の数年前から認識可能な心雑音を有する。
-
キャバリア(CKCS)は他の犬種よりも若く発症する傾向にあるが、進行の時間経過は特に違いがない。 

上記の通り、僧帽弁閉鎖不全症はワンちゃんでは最も一般的な心疾患です。

小型犬での発生が多く、日本においてはもっと発生率は高くなります。


また必ず心雑音が生じる疾患であるため、ほとんどの場合心雑音により発見されます。


これらの理由より(正確にいうと心雑音の違いによってある程度他の疾患と聞き分けている)

中高齢の小型犬で心雑音が聞こえる=僧帽弁閉鎖不全症の可能性が高い

といった判断になります。

僧帽弁閉鎖不全症になってしまったら

僧帽弁閉鎖不全症の診断はエコー検査で行います。
エコー検査にて僧帽弁が逸脱といって、きちんと閉じておらず、そこから血液の逆流が生じていることを確認します。

その上で重症度の評価を行います。
僧帽弁閉鎖不全症のステージ分類
僧帽弁閉鎖不全症のステージ分類(一部簡素化・改変)
ステージA
心疾患を発症するリスクが高い犬で、現時点では心臓の構造的異常は生じていない
ステージB1
心臓が大きくなっているような様子が、レントゲンや心エコーでみられない無症候性の犬
ステージB2
左心房、左心室の拡大がレントゲンと超音波検査において認められる
ステージC
現在あるいは過去に心不全徴候(心臓が原因で苦しくなった)の認められた犬
ステージD
心不全徴候が標準治療に抵抗性を示す終末ステージ
まずは重症度評価を行います
上記のステージのどこに当てはまるかを、心エコー検査 レントゲン (心電図)などを用いて確認します。
中でもエコー検査は検査の中では難易度が高いため、獣医師のスキルが問われます。ただ当てたらいいわけではなく
正しく計測を行えるよう検査をし、その数値を正しく解釈することが求められます。

次に標準治療を行います
ステージB2以降のでは推奨される治療(=標準治療とする)が存在します。
我々獣医師の裁量で多少は調整を行うこともあるものの、まずは標準治療を行うことが大半です。
ここを正しく行うことはとても重要で、健康寿命に関わる大きな問題です。

例:ステージB2
一昔前までは最初はACEI(アピナックやフォルテコールなど)を最初に出されることが多かったと思いますが、
現在ではベトメディンが推奨されます。

このように一般的に推奨される治療の反応を見てから調整を行なっていきます。

経過の確認を行います
上記の通り、最初は標準治療の反応を確認して内服の調整を行います。
ここからはある程度獣医師の裁量によって異なる部分になります。


目標は「心不全徴候を出さないように管理すること」です。
多くの場合は上手く管理できますが、
急な変化が全て予測しきれるわけではないのと、重症度によっては肺水腫になってしまうことはあります。

肺水腫の治療も急性期の治療と慢性期の治療で分かれており、適切な状況把握に基づいた判断が求められます。

ずっと内科治療で生きられるの?

実は人間が似たような疾患になった際の標準治療は「外科手術」です。
しかし犬の場合はまだ外科手術は一般的になっておらず、
「内科管理で限界が見えた場合」や「根本的な治癒をご家族が望まれる場合」などに選択されます。
ただ難易度が非常に高く、合併症の発生率なども高いため、リスクを伴う手術になります。
また費用や施設が限られてしまうなどの地理的な問題から選択されない場合もあります。

私の場合は循環器内科で研修・診察をさせていただいていたので、手術には直接関わってはいなかったのですが、
死力を尽くして日々あの大変な手術をされている先生方には、尊敬の念を抱いております。

最後に

今回は僧帽弁閉鎖不全症の診断と診断後の流れについてまとめました。
個別の治療に関しては、循環器科で学んだ経験を皆様に還元できると思います。
標準治療や、その後の内科治療に関してお悩みの方がいらっしゃいましたら、一度ご相談ください。

私自身、高校生の時に飼っていた愛犬を僧帽弁閉鎖不全症で亡くしております。
その経験も踏まえなるべく苦しくなく、その子らしい生活を送れるようにお手伝いさせていただければと思います。