子犬や子猫を迎えて、すぐ考えなければいけないこと
【避妊手術 去勢手術をしますか?】
かわいい子犬や子猫さんを迎えて、動物病院に行くと、必ずと言っていいほど聞かれる「避妊手術や去勢手術する予定はありますか?」という質問。
最近では皆様ある程度調べて来られていたりするので、いきなり質問しちゃったりもします。
でも皆さん、まだまだあどけない我が子に手術をすべきなのか、なかなか判断できないですよね。
そんな悩みを抱えている方の判断材料になるように
本日は避妊手術 去勢手術のメリットとデメリット そしてウチのこだわりをお伝えできればお思います。
※避妊・去勢手術とは、健康な動物に対して生殖器官を取り除く処置のことです。避妊手術は女の子の卵巣と子宮(卵巣だけのこともあります)を、去勢手術は男の子の精巣を取り除きます。
避妊手術のメリットについて
まずはじめに、女の子の避妊手術を行うメリットについてから
希望しない妊娠を防ぐ 外に出るネコちゃんや多頭飼いのワンちゃんネコちゃんにとっては、とても重要なことですね。
発情期がこなくなる ワンちゃんの場合、発情期に陰部からの出血が見られます(発情出血)が、避妊手術をすることで発情期がなくなります。ネコちゃんの場合、発情期には発情出血はありませんが、遠吠えにも似たような大きな鳴き声をすることがあります。その鳴き声は通常とは少し違って、“ぬおーん”のような低く、大きな鳴き声です。これは発情期に、女の子が男の子に対して自分の存在をアピールするためにする鳴き声なので、避妊手術によりおさまります。
発情期はそれなりにストレスが大きく、食欲が減ったりする子もいます。
子宮や卵巣の病気の予防につながる 卵巣腫瘍や卵巣嚢腫、子宮蓄膿症、子宮水腫などといった、子宮や卵巣に関する病気を予防することができます。
特に中高齢になると避妊手術をしていない犬は子宮蓄膿症という病気になりやすいです。なんといってもこの病気を予防できることはとても大きなメリットだと思います。なんせ一年のうちに数頭はこの病気で亡くなりかけて、緊急手術をしていますので。
子宮蓄膿症とはその名の通り、子宮の中で細菌感染が起こることで子宮に膿が溜まってしまう病気です。繰り返しになりますが、状態によっては命の危険性がある病気であり、ほとんどの場合は手術で子宮を摘出することが必要です。健康なときに行う避妊手術とは違い、病気での手術となるため、身体への負担やリスクは高くなります。
乳腺腫瘍の予防につながる 乳腺腫瘍とは、乳腺にできる腫瘍で、良性のものと悪性のものがあります。世界の統計では犬の乳腺腫瘍のうち、50%が良性、50%が悪性(いわゆるガン)であるといわれています。さらに、悪性腫瘍のうち50%は手術のみで治療ができますが、50%は抗がん剤などの手術以外の治療も必要です。1)
また、猫の乳腺腫瘍はほとんどが悪性腫瘍であり、診断した時にはすでに身体の他の臓器へ転移していることも多く、犬に比べて治療が困難です。
人と同じように、乳腺腫瘍は性ホルモンと関連しているため、避妊手術が予防につながります。
これを予防できるのも大きなメリットの一つです。予防しなかったことで、何回か乳腺腫瘍ができることがあり、同じ子で3回の手術を行わなければいけなくなった子もいます。
去勢手術のメリットについて
ここまでは女の子の避妊手術についてのお話でしたが、次は男の子の去勢手術を行った場合のメリットです。
マーキング行動(犬)やスプレー行動(猫)が減る ただし、これらの行動がすでに習慣になっている場合は、去勢手術を行ってもおさまらない可能性もあります。
ウチの猫は去勢手術が遅れたために、布団におしっこされました。
性格が穏やかになる その子の性格にもよりますが、同居犬・猫とのトラブルが減ることもあります。
精巣の病気がなくなる 精巣腫瘍、精巣炎などの病気の予防につながります。
前立腺肥大、会陰ヘルニアや肛門周囲腺腫の予防 特に犬に多いですが、これらの病気は性ホルモンの影響により中高齢の去勢していない犬に多く認められるため、去勢手術により予防することができます。
避妊・去勢手術のデメリット
一方で避妊・去勢手術を行った場合のデメリットは以下の点です。
手術のリスクがある 手術中に使用する麻酔薬や手術の処置はどうしてもリスクをゼロにすることはできません。予測できるリスクを回避し、リスクを最低限にするために、手術を行っても大丈夫かの術前検査をしっかり確認してから手術に臨みます。
太りやすくなる 生殖器官を取り除くことで代謝が変わり、太りやすくなると言われています。肥満は他の病気を引き起こすリスクがあるため、避妊・去勢手術後の体重管理には気を付けてあげる必要があります。
縫合糸反応性肉芽腫 稀ではありますが、手術で使った糸に対して体が免疫反応を起こし、肉芽腫と呼ばれるしこりができてしまうことがあります。免疫反応を起こしづらい糸を使う、糸を使わない方法で手術を行う、などの対応をすることもあります。
尿失禁(女の子の犬) 尿失禁とはリラックス時や興奮時に尿道の筋肉が緩むことで無意識に尿が漏れることです。これは性ホルモンが排尿時の括約筋に関わっているため、避妊手術により性ホルモンの分泌がなくなることにより起こるのではないかと考えられています。ひどい場合は投薬でコントロールします。
当院のこだわり
術前検査をしっかり
避妊・去勢手術で(心理的に)一番怖いのはやはり麻酔だと思います。
なぜかというと、担当獣医師以外の方には分からない事や、不確定要素が多いから。
だからこそ、任されている我々は、腎臓は大丈夫かな?肝臓は?心臓は?麻酔薬との相性は?今日の体調は?絶食はできた?などなど細かな部分も出来る限り確認していきます。
そして術前に少しでも不安がある場合は追加検査をしっかり行い、出来る限り確認を行なって手術判断を行います。
特に猫ちゃんの場合は若齢でも心疾患が隠れていることがあるため、可能な限りエコー検査を実施しています。
麻酔記録を残す
これは、今後の麻酔の時に活かせるから。できたら一生の内に一回で済めばいいのですが、どうしても麻酔をまたかけないといけない時に、避妊・去勢手術の成功体験を記録しておくことは重要です。なぜなら麻酔薬などとの相性は使ってみないと分からないからです。そういう意味では、一回大丈夫であったお薬なら安心して使えます。
また、記録をつけることが、麻酔時のバイタルサイン(血圧や心拍数、呼吸状態など)を確認することに繋がるため、確実なチェックにつながります。
さいごに
避妊・去勢手術は日常に行われている手術ですし、大丈夫であろう!と自分に言い聞かせていても不安は残りますよね。だからこそ正しく理解し、納得し、少しでも不安を取り除いた上で手術を受けさせてあげたいですよね。
分からない点があれば、何でも聞いてください。疑問点を解決したうえで、避妊・去勢手術を受けることをおすすめします。
参考文献
1)Textbook of Veterinary Internal Medicine 第7版 Client Information Sheets
2)SCHNEIDER, R. et al., 1969. Journal of the NationalCancer Institute 43: 1249-1261
3)Beth Overley et al.,2008. Journal of Veterinary Internal Medicine 19(14): 560-563