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猫に多い慢性腎臓病
健康診断の季節になり、 先に慌ててFGF-23というマニアックな項目の解説 をアップしましたが、そもそも猫ちゃんの腎臓病の部分からお伝えしたいと思います。これまで猫ちゃんと暮らしたことがあるご家族にとって“腎臓病”はとても身近な病気かもしれません。

なぜなら、特に高齢猫は腎臓病になりやすく、10歳以上の猫ちゃんでの腎臓病の有病率は30%〜40%と言われ、極めて身近な疾患です。
人間で言うと、スギ花粉症の有病率が45%と近いイメージですね。

ただ情報量が多すぎて、何を信じればいいのか、何に気をつけていればいいのか、判断できないですよね。
そしてよくあるのが、他の猫ちゃんで良かったから、自分の猫ちゃんにも当てはまると思い込んでしまうことです。
一口に腎臓病と言っても一人一人でやるべきこと、やった方がいいことは変わる部分があります。
今回はほとんどの猫に当てはまる部分にフォーカスし、正しく腎臓病のことを知ってもらうことで、腎臓病の早期発見、腎臓病の子の家での過ごし方の参考になればと思います。

慢性腎臓病とは?

猫の腎臓病には“急性腎障害”と“慢性腎臓病”とがあります。
急性腎障害(急性腎不全)
何らかの原因によって数時間~数日と短期間の間で、急激に腎臓がダメージを受けることです。原因には、尿結石や腫瘍によって尿の通り道が塞がってしまう、中毒物質や感染、脱水や心臓の疾患などにより腎臓への血液が減少してしまう、などが考えられます。
早急に治療を行うことで腎臓の機能を回復させることができることもありますが、場合によっては手遅れになってしまったり、そこから慢性腎臓病につながることもあります。
慢性腎臓病(慢性腎不全)
3ヶ月以上腎臓がダメージを受け、腎臓の働きが低下してしまうことです。初期の頃は症状があまりみられず、気づいた時にはすでに進行していることも珍しくありません。慢性腎臓病は高齢になるにつれてかかるリスクが高くなり、じつは10歳以上の猫の約30%が慢性腎臓病になるとも言われています1)

慢性腎臓病の分類

慢性腎臓病は進行度合いによって大きく4段階に分かれています。(IRISのステージ分類2))1→4になるほど進行した病期となります。
この分類は主に血液検査の結果から分類され、このステージを目安に病気が進行していないかをチェックしたり、治療を決めたりしていきます。ステージ分類の簡単な内容は下に記載したので、興味のある方は見てみてください。日頃腎臓病で病院にかかっている方は何回かお話に出ているかもしれませんね。
ちなみに以下に出てくるCreやSDMAは、血液検査で分かる腎臓の数値のことです。

ステージ1
Cre<1.6(正常範囲内)、SDMA<18(正常範囲内か、わずかな上昇)である。持続的にSDMA>14となる場合は慢性腎臓病の早期発見の診断にも使う場合がある。いくつかの尿の異常がみられる。(腎臓以外の原因が考えにくい尿比重の低下、腎臓由来の尿蛋白、触診や画像所見での腎臓の異常など)
ステージ2
Creが1.6~2.8、SDMAが18~25と軽度の上昇である。臨床徴候はみられないか、あってもごく軽度である。
ステージ3
Creが2.9~5.0、SDMAが26~38である。臨床徴候はさまざまで、症状がない場合もあれば顕著な臨床徴候があることもある。
ステージ4
Cre>5.0、SDMA>38である。全身の臨床徴候が増悪している。

症状

慢性腎臓病を患った猫は次のような症状がみられます。
多飲多尿(たくさん水を飲んでたくさんおしっこをする)
食欲低下
元気消失
痩せてくる
毛づやがなくなる
よだれが多くなる
口臭がする

じつは来院して腎臓病だと診断される猫ちゃんは、食欲低下や飲水量が減少し、体重も減った状態でやってくることが多いです。体重が減っているということは、おそらくそれなりの期間、食欲の低下が続いていた、しんどい思いをしていた、ということが考えられますね。つまり、ここに挙げたような色んな症状が出てくる頃には、もう腎臓病が進行してしまっていると思った方がいいです。できるだけもっと早い段階で異変に気付きたいものです。

ではどんな変化に気付けばいいのでしょう?

腎臓病を患って一番はじめにでてくる症状は“
多飲多尿”です。

水を多く飲むことは良いことだと思っていた…なんて声も聞きますが、その子のいつもの量よりも“水を飲む量が増える”、“おしっこの量が増える”ことは、何か異変が起きているサインかもしれません。普段と比べてどうか、を気にかけてみてくださいね。この多飲多尿の段階で気づくと、早期に治療をスタートすることができると思います。

一般的に言われるのはこのラインですが、我々が目指すのはもっと早期での発見です。

そこで出てくるのが定期的な健康診断です。後ほど早期発見のポイントを解説します。

診断

身体検査の他に血液検査、尿検査(UPCを含む)、レントゲンや超音波検査、血圧測定を行います。
血液検査では腎臓の数値(BUN、Cre、SDMAなど)が上がっているのかをチェックしますが、BUNやCreといった腎臓の数値は、腎臓の働きが75%壊れてから上昇する1)、とも言われています。
画像検査(レントゲンや超音波検査)では腎臓の大きさや形、結石の有無などをチェックし、腎結石や腫瘍、水腎などといったものがないかを確認します。
また、慢性腎臓病の合併症として高血圧や貧血、電解質の異常がみられることもあるため、それらの項目も検査します。
さらに食事の判断をするために、FGF-23(冒頭で述べた項目)を見ることもあります。

これらの項目の中で、異常がある部分を総合して治療やケアを判断するので、一人一人ですべきことが異なります。

早期発見のポイント

本題の早期発見のポイントに入りましょう。

診断の中でもさまざまな項目が出てきましたが、早期発見で絞ると

参考基準値内でのCre SDMAの上昇(特にCre)

といった部分が極めて重要になります。
Creという項目は健康な場合、一人一人で値が大きく変化することはありません。
その値が徐々に上昇している場合は、参考基準値内でも腎機能の低下を疑います。(腎機能を低下させている要因があるかも?と考えます)

端的にいうと
徐々にCre SDMA が上昇していたら腎機能の低下を疑え

ということです。
そのわずかな変化に気がつくためには定期的な血液検査が必要
というわけです。
これが健康診断が重要な理由の一つです。

このタイミングで気がつけるかどうかは、寿命に直接的に関わる可能性が高いです。
なぜなら猫ちゃんでは、死因として腎臓病が多いからです。

治療

腎臓は一度壊れてしまうと元には戻せません。治療は【今より悪化させないこと】が目的になります。そのため機能が残っている部分がこれ以上壊れてしまわないようにしていくことがメインになります。
療法食
腎臓の療法食はタンパク質、リンが制限されています。療法食をなかなか食べてくれない…というネコちゃんもいますが、さまざまなメーカーからドライフード・缶詰、パウチなどのタイプが販売されているため、色々と試していきましょう。
ただ開始のタイミングや、筋肉量低下の問題など、頭を悩ませる要因が多いのが実情です。
点滴
点滴には血管から行う静脈点滴と、皮膚の下に入れる皮下点滴があります。静脈点滴は病院で行いますが、皮下点滴は自宅でも行うことができます。病院で一緒に練習してご家族の方が自宅で行う、といったことをすることで、ネコちゃんの来院頻度をなるべく減らしてストレスをかけないようにする、といった方法もあります。
これも注意なのですが、『点滴をすれば腎臓が良くなるわけではありません』
投薬
腎臓の組織が壊れるのを抑制する薬や、尿からタンパクが漏れ出るのを抑える薬、高血圧を抑制する薬、貧血に対する薬など、その子の状態に応じて使います。
サプリメント
体内のリンが多くなると組織の石灰化につながるため、リンを制限することが推奨されています。リンを吸着して便と一緒に排泄するようなサプリメントや、機能が低下した腎臓から捨てきれない不要な老廃物を吸着して排泄するサプリメントがあります。

家でできること

慢性腎臓病と診断されると、今後ずっと腎臓病と付き合っていくことになります。猫ちゃんにもご家族にも負担が少ない治療、猫ちゃんがストレスを溜めないような生活を送れるとよいですね。

基本的に治療はご自宅でおこなってもらう投薬や食事療法(場合によっては点滴も)がメインとなります。
また、慢性腎臓病の猫ちゃんに水を飲んでもらうことも非常に大切です。普段からあまり水を飲まないネコちゃんがいれば、予防や病気の進行を抑えるためにも、ぜひ次のことを試してください。

色々なタイプの水を置いてみる
水道水、ミネラルウォーター、お風呂に溜めた水など、その子の好みの水を探してみてください。また、器に入っている水よりも水道の蛇口から出る水を好むネコちゃんもいます。そういった子には噴水のように水が循環するタイプの給水器を使ってみてください。
水はこまめに替えて、器も清潔に
器や水は清潔に保ってください。水を替えた途端飲む子もいますよ。
水に匂い付けしてみる
鶏肉や魚のゆで汁、鰹節などで匂いをつけることで飲水量が増える子もいます。
器の材質にも好みがある
プラスチック、ステンレス、陶器、ガラスなど、その子の好みのものが見つかるかもしれません。
置き場所にも工夫を
落ち着いて飲水できる場所に置いてみてください。複数個置いてあげるとアクセスしやすくていいかもしれません。
また食事とは少し離した方がいい場合もあります。
ウェットフードにする、フードに水分を増やす
ドライフードに比べて水分量が多いのが、缶詰やパウチなどのウェットフードです。水分量が多いタイプのフードにすることで知らず知らずのうちに水分が摂取できます。
水分量の多いフードに関してはご相談ください。とにかく日頃から少しでも水を多めに食事から摂るということは大切です。

さいごに

慢性腎臓病は多くの猫がかかる身近な病気ですが、一度患うと生涯に渡って治療が必要となるため、ネコちゃん・ご家族に負担がかかってしまうことも多いです。
また、初期の頃は気づかれない程度の症状であることも多く、はっきりとした症状が出てくる頃には進行した状態であることも多いです。早期発見することで病気の進行を緩慢にすることができるため、定期的に健康診断を受けることや、少しおかしいかな?と思った時には早めにご相談していただくことをおすすめします。
参考文献
1)Lulich JD, et al. (1992) Feline renla failure: Questions, answers, questions. Compend Educ Plact Vet 14: 127-152